山中 大学 (Manabu D. Yamanaka):台風などではないのに災害級の大雨が,対流性の雲(積乱雲,入道雲)が線状に次々できて,同じ場所を通過していくために生じることは,専門家の間ではかなり以前、例えば1982年長崎豪雨あたりから強く認識され研究が進められてきました.しかし台風のように日本全図的な天気図や気象衛星雲画像で示せない,百km前後の大きさしかない線状降水帯は,1990年代まではレーダー観測のカバーする範囲や頻度が今ほどは充分でなく,また大きな被害が出る地域や頻度も限られていたことなどもあり,一般向けの解説等で言及されることはほとんどありませんでした. その後,降雨の観測のみならずネットワーク上の準リアルタイムデータ公開も飛躍的に進んで誰でも随時見られるようになってきたことと,特に近年はほとんど毎年かつ全国各地でこの現象による大雨と災害が発生するに及んで,マスコミもこの語を多用するようになりました.具体的には,既に先に回答された読者さんが指摘しておられる2014年広島豪雨からだと思います.実は集中豪雨という語は1950年代頃にマスコミが作って使い始め,定義が不明確なため専門家や気象庁はあまり使わなかったのですが,線状降水帯の語は上記のような経緯もあって気象庁や関係学会の側がかなり積極的に使っており,そのために急速に一般に普及したものと思われます. 今はスマホ上の関連機関や気象会社のアプリでも随時見られるようになってきたとは言え,地球温暖化や海水温上昇などによる高温でほとんど日本全体の広範囲で水蒸気量が多くなっている場合に具体的にいつどこで発生するかという詳細な条件はまだ充分に解明できておらず,したがって予報にはまだ限界があります.このあたりの現状は,線状降水帯に関する第一人者である加藤輝之気象庁気象研究所台風・災害気象研究部長が昨年末に出版された「集中豪雨と線状降水帯」にまとめられています.(Read more)
読者:線状降水帯という言葉は以前から存在していましたが、この現象に注目する必要があると認識されたのが、2014年に広島市で降った集中豪雨が引き起こした土砂災害でした。 おっしゃる通り、ほぼ10年前に、この土砂災害をきっかけに報道で用いられ始めた言葉です。 追記9/18: 山中大学教授。詳細に解説いただきありがとうございます。非常に勉強になります。(Read more)