佐藤克士/"SATO Katsushi",Ph.D.:日本の公立中学校を例にお答え致します。
近年の国の教育施策の動向(個別最適な学びの充実,カリキュラム・マネジメントの充実,義務教育9年間を見通した教科担任制に関する提言等)を踏まえると,あり得ない話ではないように思われます。
実際に文部科学大臣が定める教育課程の基準である中学校学習指導要領(第1章総則)には,「各学校においては,教育基本法及び学校教育法その他の法令並びにこの章以下に示すところに従い,生徒の人間として調和のとれた育成を目指し,生徒の心身の発達の段階や特性及び学校や地域の実態を十分考慮して,適切な教育課程を編成するものとし,これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする。」と示されています。上記の記述を踏まえるならば,制度的には,各学校の校長が,「教科毎に子供のレベルに応じて授業を行う」という方針のもと,教育課程を編成し,それが所管の教育委員会に受理されれば,「教科毎に生徒のレベルに応じて授業する学校」は存在してもおかしくありません。問題は,なぜ,日本では制度的には,実現可能である「教科毎に生徒のレベルに応じて指導する学校」が現実には少ない(または無い)のかという点です。考えられる要因は,第一に,全ての学校(特定の学校にだけ)生徒のレベルに応じた(きめ細やかな)指導を実現するための予算(人件費)を配分することが難しいこと。仮に予算が組めたとして,大雑把に「よくできる」「普通」「あまりできない」というレベルの生徒に対して,どのようなレベル(腕)の教師が,どのレベルの生徒に指導すれば最も効果的かというエビデンスは恐らく存在しない。第二に,全ての教科において子供のレベルに応じて授業を行えば,学力が上がるとは一概には言えない可能性があること。第三に,第二の要因と関連して「教科毎に生徒のレベルに応じて授業する学校」が存在したとして,在籍するすべての生徒の学力が上がる保証はどこにないということ等の要因が考えられます。