橋本 省二:電子に吸収されてその運動エネルギーなどに変わります。答えはそれだけなんですけど、その先の質問も出てきますよね。「どうして光は吸収されるんですか?」「どうして光を反射する物質があるんですか?」「どうして光を反射しない物質でも見えるんですか?」などなど。こういう一つひとつの疑問の先には、自然界の基本法則とか物質の構造とか、広くて深い物語が横たわっています。だから、簡単な答えに納得しないで次のレベルの問題を考えてみてほしいんです。まずは今回の問題を考えてみましょうか。
光の正体は電磁波です。電荷があるとそのまわりに電場ができる。電荷が揺れ動くと電場も揺れる。この揺れる電場が電磁波だというわけですね。逆に電磁波の振動(つまり光)があたると電荷(つまり電子)を揺らすことになります。光のエネルギーが電子の運動に変えられたんですね。
実際はもっと複雑です。なぜなら電子は単独で真空中に漂っているわけではないから。原子核につかまって原子をつくったり、それがさらにくっついて分子をつくったり、いっぱいくっついて固体を作っていたりするわけです。1個の原子のなかには、とびとびのエネルギーをもつ電子の軌道があり、光があたると電子はある軌道から別の軌道に飛び移ります。分子になるとどうでしょうか。やはりとびとびの軌道があるのですが、それらは複数の原子のあいだを行き来する軌道になっていたりしてずっとややこしくなります。分子の振動や回転に相当するものも出てくるでしょう。そうすると光が衝突することで分子の振動や回転を引き起こすことになります。
固体というのは多数の原子がくっついてできたものですね。隣の原子を結びつける電子がいたり、多数の原子のあいだを渡り歩くやつがいたりいろいろです。ここに光を当てると、どの軌道の電子にぶつかってどの軌道に移すかによっていろんなことが起こりそうです。光からエネルギーをもらった電子がふたたび光を出して別の軌道に移るようなこともあるでしょう。この光はつまり反射ですね。
身の回りの現象も、原子や電子までさかのぼっていくとまた別の世界が広がっています。こういうのを考えると楽しいですよね。私は原子分子とか固体物理とかをしっかり学んでいないので、いつかじっくり勉強したいです。いまから待ち遠しい老後の楽しみです。