私個人は「生きる意味は確かに存在するし、それは何かと一言でいうならば《愛》である」と思っています。ここでいう《愛》とは、いわゆる恋愛ではなく聖書的な意味での愛です。
ですが、それをいま回答として展開したいわけではありません。「生きる意味」を考えるときに忘れがちなことの話を書きたいと思います。
「人間が生きる意味は存在するのか」(そして、存在するとしたらそれは何か。そして、存在しないとしたらその理由は何か)のような問いの場合、答えを探すよりも前に「問いの意味」を吟味することがとても大切であると思います。これは数学でも同じなのですが、言葉の定義や問題の条件を明確にしないうちに闇雲に「答えを出そう」と思ってもしょうがないからです。
「人間が生きる意味」を考える上で私がとても大事だと思っているポイントは二つあります。一つは「人間全般について考えたいのか、自分について考えたいのか」という点。もう一つは「人間(自分)が考える能力をどのくらいに見積もるのか」という点です。
一つ目のポイント「人間全般について考えたいのか、自分について考えたいのか」について。
つまりこれは「人間というものが生きる意味」に答えようとするのか、「自分が生きる意味」に答えようとするのかの違いです。これはまったく違う問いになると思います。
前者は後者に比べると、とてつもなく難しく、大きな問題です。というのは人間は世界中にたくさんいますし、歴史を考えるならば途方もない数の(そして種類の)人間がいます。それらに共通の要素を探そうというのですから。
前者に比べると後者だって十分難しいのですけれど、比較すればまあ易しいといってもいいでしょう。なぜなら、自分という存在については「内面をそれなりに探ることができるし、他の誰も知らないことも知っている」という優位性(?)があるからです。
「生きる意味」を考える上で、答えらしいものが出た際に吟味する必要がありますよね。そのときに「人間すべて」について吟味するのはまったく不可能でしょう。それに対して「自分自身」について吟味するのは(厳密には不可能ですけれど)、まだ手がかりがたくさんありそうです。
「生きる意味」というのは人によって異なる可能性は非常に高いです。少なくとも意味を具体的にしようと思えば思うほど、人によって「ばらける」可能性が高いです。それは人間に関するどんな質問であってもそうです。人は非常に多様な環境で、多様な性格や特性を持っているからです。
もしも人間に共通の意味を見出したいというのなら、その答えはおそらく非常に抽象度が高いものになるはずです。そして「その生きる意味は、特定のこの人にとってはどういうこと?」と意味をはっきりさせるには抽象度を下げる努力が必要になるでしょう。
私が冒頭で答えた「《愛》」という生きる意味は非常に抽象度が高いものであり、そして個別的・具体的な意味をはっきりさせるには努力が必要になります。
二つ目のポイント「人間(自分)が考える能力をどのくらいに見積もるのか」について。
たとえばあなたは質問の中で「今後生きる上でその意味が見つかるような気がしません」とありました。あなたは20歳で生まれてからこれまでの20年の経験と学習を元にして死ぬまでの状況を推論しようとしているわけです。もちろんそれが悪いわけではありませんし、悪いどころか大切なことであると思いますが、ある種の謙虚さ(自分はごく限られた中で考えようとしているという認識)はいつも必要になります。あ、念のために書いておきますが、あなたがそのような謙虚さを持ち合わせていないといいたいわけではありません(むしろ逆です)。
問いの答えを考えるとき、つい固定的に考えがちです。ちょうど数学の答えのように。しかし「生きる意味」のような問いの場合には、自分の経験によって(あるいはもっと単純に時間によって)変化する可能性が高いと思います。
生きる意味が変化するといっても、そのつど適当に変わるということを言いたいのではなく、人が時間を経て経験を加えていく中で、その人にとっての「生きる意味」は深化し、窯変していくのではないかということを言いたいのです。
私自身、20代のときに考えた、人間(自分)の「生きる意味」と、50代の現在で考える「生きる意味」とは同じ《愛》という表現でくくれると思いますが、その意味はだいぶ違うと感じます。
以上、「生きる意味」そのものというよりは、「生きる意味を考える上で大切だと私が思うこと」をお話ししました。
関連しそうな私が書いた文章を以下にリンクします。
◆生きている意味と自分に与える猶予(日々の日記)|結城浩
https://mm.hyuki.net/n/ne6cf9b2103eb
◆自分はいったい何をよりどころにすればいいのだろうか | 結城浩のお話
https://story.hyuki.net/20180329224200/
◆生きる目的 | 結城浩のお話
https://story.hyuki.net/20180409163612/
◆何のために生きるの?|結城浩