小田部正明 (Masaaki Kotabe):この質問に答えるには長い歴史的な観点を考慮しなければなりませんが、ここでは過去数十年の北米の現状に基づいて答えます。昔はヨーロッパからの移民が多かったのですが、アメリカでもカナダでも1980年頃からアジア・東ヨーロッパからの移民が多くなりました。この新たな移民は一般に教育レベルが高く法的な移民として、アメリカやカナダの経済発展に貢献してきました。アメリカの場合、メキシコを始めとするラテンアメリカから豊かなアメリカの生活を求め貧困層の人々も合法移民ばかりでなく不法移民として入ってきました。彼らの多くは一般に低賃金で農作業・工場での組み立て作業等の単純労働に従事し、マクロ経済的にはアメリカ国内の農産物等の価格を抑えるのに貢献してきましたのが現実です。しかし彼らは一般的に低所得者でいろいろと地域の社会福祉(医療、子供の教育、犯罪防止等)に依存することが多く、地域への負担ともなりました。運悪くマスコミはこの点ばかりを強調するので、ラテンアメリカからの移民(合法、違法を問わず)が否定的に見られています。カナダはアメリカの北に位置するので、ラテンアメリカからの不法移民の問題はほとんどありません。
現在、アメリカのとカナダの人口はそれぞれ3.31億人、0.38億人である。国の面積はカナダの方がアメリカよりやや大きい。そう考えると、アメリカの人口はカナダの人口の10倍近くあり、しかも1980年以降の人口増加がアメリカもカナダもほぼ同じで50%程である。つまり、アメリカは1億人以上の人口増加となり、日本の人口を足した程増加している。この増加は殆ど移民による増加です。そういう意味でも、カナダと比べアメリカでの移民関係のニュース、特にネガティブなニュースばかりが目に付く。
最後に、アメリカの労働者階級の人々を擁護することを掲げて前トランプ大統領が成立し、中国や移民に対し敵対心をあからさまに出すような政策を立ち上げていったのも、カナダと違いアメリカ国民(特に合法移民・違法移民によって直接影響を受ける労働者階級)の反移民感情が強くなっている。