粟田知穂:直接の回答になるか分かりませんが、検察官は公判廷における冒頭陳述や論告で、被告人について「職を転々とし」という表現をこれまでよく用いてきました。そのニュアンスを推察すれば、一か所で働き続けるだけの忍耐力や社会性、協調性などが欠けている、といったネガティブな要素を指摘したいからなのではないかとも思います。
ただ、アメリカなどでは、全く新しいことに挑戦することはむしろポジティブなこととしてとらえられることも多いです。また、仕事について、「個人と組織」ではなく「個人と職種」のマッチングであるとされ、同一職種でもよりよい条件の雇用先があれば、転職(というか「転組織」)するのはむしろ当然と考えられています。
日本においても、人材市場の流動化や、能力評価の適正化などの要請から、個人を学歴や性格・協調性等ではなく、職種に対する能力・スキルで評価すべきとの議論が始まっています。そうなれば大学等における教育・学習がより実質的・実践的なものになるでしょうし、現に、医師や弁護士といった職種では、勤務先を転々とすることはかなり前から当たり前になっています。その意味で、今は過渡期にあるのかもしれません。