橋本 省二:30〜50年後には核融合発電(究極のクリーンエネルギー!)が実現する。たぶん50年くらい前からずっとそう言われてきました。いまも同じです。その間、もちろん技術にはさまざまな進歩があったはずです。それでも目標はあまりに遠い。現場の技術者が無責任なことを言うとは思えませんから、「将来は実現できるはずです」「どれくらい待てばいいんでしょうか?」「そうですねえ。予見は難しいけど30年もすれば」。という会話が翌日の新聞で「30年後に実現!」になったというのが真相かもしれません。
今回、米国ローレンス・リバモア研究所がレーザー爆縮で起こした核融合は、2メガジュールのエネルギーを注ぎ込んで燃料のペレットを圧縮し、3メガジュールのエネルギー発生を確認したんだそうです。メガジュールと言われるとピンときませんが、およそヤカンでお湯を沸かせるくらいのエネルギーです。発電というにはごくわずかですね。しかも、2メガジュールのエネルギーを注ぎ込むためにレーザー装置は300メガジュールを消費したそうですので、使ったエネルギーの1%が戻ってきたということになります。ものは言いよう。一里塚と言う人もいるでしょうし、「まだまだ全然」と言う人もいるでしょう。
課題はこれだけではありません。現状ではペレットの製造コストが高すぎる。現状ではレーザーは一回こっきりで、打つごとに数ヶ月調整が必要。発生したエネルギーを回収するのはどうするのか。どれ一つとして簡単なものはなさそうです。
こんな実現可能性のわからないものでも、アメリカは将来を考えて大胆に投資している。日本も遅れてはいけない。そう言い出す人がいるかもしれません。ですが、アメリカは現実主義の国です。リバモア研究所は核兵器開発のために設立された研究所だということを思い出しましょう。今回の実験をした
National Ignition Facility は "Weapons and Complex Integration"
という組織の傘下にあるそうです。兵器の研究組織です。そこで何でこんなことをやっているのか。当然考えられるのは、高温高圧下での核反応の研究です。水爆は、その点火のために原爆を使って爆縮を起こすんだそうです。そんなのをいつも実験するわけにはいかないので、レーザーでより安全に実現する。そういう目的なら現状の施設でも十分に使えそうです。今回のはちょっとしたスピンオフと考えるべきなのかもしれません。