福島真人:一つの可能性は、アメリカ民主党が80年代以降シフトしてきたいわゆるアイデンティティ・ポリティックスの影響ではないかという気がします。これはいわば党の主張の中核をあらゆる意味でのマイノリティをベースに置くというもので、フェミニズムのみならず、人種的、文化的、その他の少数派擁護の姿勢を強く打ち出したため、白人労働者のような、もともとは民主党系だった支持層が共和党に流れ、逆に高学歴系の人々を引き付ける状況になったと指摘されています。
米民主党は特に東および西海岸の高等教育機関に支持者が多いので、そうした社会層を通じて、その主張や発言力が影響力を増してきたのではと推測しています。私の友人でフェミニズム関係でも発言している科学史系の米国人研究者は、自分は東および西海岸の大学にはよく招待されるが、中西部では招待されたことが一度もない、といってましたが、うなずける話です。
ちなみに話が発展途上国になると、単純にこうした考えが受け入れられるわけではなく、むしろ第三世界では、伝統的価値を擁護するプーチンのロシアの方を支持する国も多い。人口学者エマニュエル・トッドのように、彼のような人物がこうしたグローバル・サウスの思想的盟主になるかもしれない、と主張する人もいますので、北半球以外の動きにも注目する必要があります。