彩恵りり🧚♀️科学ライター✨おしごと募集中:①に答える前に、まずは②から説明してみるね。ただ、その前に更に前提から行くよ。
ブラックホールの性質はアインシュタイン方程式を解くことで、たった11項目のパラメーターだけで表せることが知られているよ。ただしこのうち、3項目は3次元空間での位置を示す座標、3項目は3次元空間でどの方向に移動しているかを示す運動量なので、これは基準を適切に設定し、ゼロにすることができるよ。そして、3次元空間での角運動量、つまり回転する運動についても、1つの軸に対して設定が可能なので、3項目のうち2項目をゼロにすることができるよ。ということで、ブラックホールは1項目の角運動量と、元々1項目しかない質量と電荷のパラメーターで全てを表すことができるよ。3項目のパラメーターだけですべてを表せるという、普通の物質と比べると極端に性質が少ないことを指し、これをブラックホール無毛定理
(あるいはブラックホール脱毛定理、口語的に "ブラックホールには毛が (3本しか) ない" ) と呼んでいるよ。
さて②の質問、角運動量を持つ、つまり回転しているブラックホールは何が回転の源かというと、質問者さんの推定通り、重力崩壊する前の天体の自転が反映されたものだと考えられているよ。実際、1秒以内に何回も回転する中性子星は、元となった恒星の自転が保存されたものであり、ブラックホールも同じようになると考えるのは自然だね。そして中性子星もブラックホールも、元の恒星と比べると物凄く小さいので、角運動量保存の法則により、自転速度は元の恒星より速くなるよ。フィギュアスケートの選手が、腕を広げている状態から縮めると段々と回転速度が速くなるのを見たことがあると思うけど、これと同じようなことが恒星の崩壊現場でも起きていると考えていいよ。また、2つのブラックホール同士が衝突する時には、正面衝突というのはほぼあり得ず、大抵は合体するまでの短い期間は互いの重心の周りを公転する連星関係になるよ。この時も回転運動が生まれるので、合体後の自転速度に影響するよ。どういう結果になるかは、元々持っていた自転速度、質量の違い、重力波の形でどの程度質量が失われるかなど、合体の状況によって変わるよ。
そう考えると、①についてもおのずと答えることができるよ。現実の宇宙に存在する天体は大体が回転しているので、全てのブラックホールは回転しているカー・ブラックホールであると考えて差し支えないよ。もちろん、回転をしていないブラックホールというのを数学的に生み出すことはできるし、最初に理論的に発見されたブラックホールはこの回転していないブラックホールであるシュヴァルツシルト・ブラックホールだよ。ただ、基本的には全ての天体は回転をしているし、天体同士の合体も回転運動を生み出すし、あるいは天体の元となるガスや塵の凝集も回転運動を生み出すよ。そう考えると、現実に存在するブラックホールは、全て回転しているブラックホールである、と言うことができるよ。
ちなみに、ブラックホールの数少ない "毛"
としてある電荷の項目だけど、回転運動と電荷の両方を持つブラックホールをカー・ニューマン・ブラックホールと呼び、現在の物理学の基本であるアインシュタイン・マクスウェル方程式の下では、ブラックホールはカー・ニューマン・ブラックホールに限られるというブラックホール唯一性定理もあるよ。だから厳密に②について答えるなら、宇宙にあるブラックホールはカー・ニューマン・ブラックホールのみであると言うべきだよ。ただ、現実にある天体のほとんどは電荷を持っていないか、あってもめっちゃ少ないから、事実上は回転運動のみを持ち、電荷を持たないと考えることができるよ。よって、現実的には角運動量のみを持つカー・ブラックホールが、宇宙に唯一存在するブラックホールの種別だと考えることができるよ。もちろん、ちゃんと測れば、厳密にはカー・ニューマン・ブラックホールである可能性が高いものの、現状では測定手段もないし、電荷があってもその影響が無視できるほど小さいと考えられるから、とりあえずカー・ブラックホールと見なして差し支えないよ。