「大きなことを遂行する上で、内発的動機付けを保ち、モチベーションを維持するための工夫」ということですね。私自身のモチベーション維持について思うところを書きたいと思います。
私は日々、連載記事や書籍などを執筆しています。連載記事の場合には数日、書籍の場合には数ヶ月、一つのことに取り組みます。でもどちらにしても一回限りで終わりではなく、ずっとそれが継続していくことになります。私が最初に刊行した本は1993年刊行ですから、私はこのような執筆生活を30年近く継続してきたことになります。
そのような継続的な執筆活動を支えてきたものは何か。それを考えてみますと、確かにモチベーション維持は大事なのですが、それよりもずっと大事なのは「習慣」ではないかと思います。毎日執筆する。いつも「現在書いているもの」がある。当たり前のように原稿に向かう。書いた原稿を読み、手直しし、また読み返す。そのような「習慣」です。
変なたとえになりますが、毎日ご飯を食べたり水を飲んだりしますよね。朝になったら顔を洗い、夜になったら歯を磨いて着替えて眠る。それと同じような感覚で、毎日原稿に向かいます。そのような状態になっていると、特に苦労はなく(というと言い過ぎですが)継続が出来、そして当然ながら継続の結果として大きな実をたくさん結ぶように思います。
別の言い方をすると、「自分のやる気に頼らない仕組みを作っておく」ともいえます。自分の状態が良くないときは確かにあり、そのときには生産性は落ちます。それは当然です。でもまた次の日になれば、原稿に向かいます。それが習慣だからです。自分の調子が良くても悪くても、喉が渇いたら水を飲むように自分のすべき仕事に向かう。そのように心がけています。
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モチベーションの維持は不必要というわけではありません。たとえば私の場合に大きなモチベーションになっているのは、自分の読者さんからの反応ですね。ネット書店の書評、SNSでの言及、ブログでの感想、メールでやってくる応援……それらは私を深いレベルで支えてくれます。
ただし、それらはあくまで他者からやってくるものですから、私にはコントロールができません。強制して感想文をもらうわけにはいきませんからね。でもたとえば、感想に対して感謝を返したり、Twitterだったらリツイートしたり、あるいはふだんから「感想はWelcomeです!」のようにまわりに言い続けたりということは心がけています。
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もう少し深く考えてみます。私は文章を書く上では《読者のことを考える》のが鉄則であると思っています。言い換えるなら、読者に良いものを届けることが自分が目指すべき価値だと理解しています。もっとも大切なこと、といってもいいです。ですから、その重要ポイントに寄与するものと寄与しないものという観点から活動の方向性を考えることができます。
「モチベーションの維持」と表現すると「自分の気持ち」のように「自分」を観察してしまいがちですが、そうではなくて、自分の活動の対象(たとえば原稿)のことを考える。それがどこに向かうべきか(読者に向かう)を考える。そのような考え方をしていると、あまり自分の状態に依存しないで活動ができるようです。
調子が良ければすごくがんばるけれど、調子が悪いときにはまったくだめ、というのではなく、自分の状態が良くても悪くても、なすべきことははっきりしているので、淡々と継続する。
私はそのような働き方が好きなのだと思います。
あなたのご質問への直接的な回答ではありませんが、思うところをお話ししました。こんな考え方もあるんだなと思っていただければうれしいです。
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なお、私の日々の作業ログ(淡々と執筆を続けるようすをリアルタイムでWebに記録しているもの)は有料で配信しています。ご興味があればどうぞ。
◆結城浩の作業ログ