川原繁人:私の大学院時代の恩師の一人はとにかく知識が広く、しかもその知識を専門分野に応用できるので、とにかく圧倒されっぱなしでした。
良く覚えているのが、言語理論の話をしていたのに、いつの間にかカントールの無限論についての話始め、とある理論が「不可算無限を生み出すために言語理論として相応しくない」とのこと。当時はさっぱり理解できませんでしたが、ようやく彼の言っていたことが理解できました。
それだけでなく、ドイツ語・フランス語はもちろん、ラテン語・ギリシャ語も読めて、それでいて専門はアラビア語やヘブライ語などのセム系語族の分析。
知識の広さだけでなく、人の理論を聞いた途端、その理論がどのような予測をするのか瞬時に見極める力があり、その瞬発力は敵う気がしませんでした。それでいて教え方も上手くて、distinguished
teacher awardなるものも受賞していました。私が理論家から実験屋に変わったのは、彼には絶対敵わないと思ったことも原因の一つかも知れません。