小川仁志:いい質問をありがとうございます。哲学と宗教の違いはよく尋ねられます。基本的には、哲学は疑う営み、宗教は信じる営みですから、両者は一見正反対であるようにも思えます。実際、ローマカトリック教会が実権を握っていたような中世ヨーロッパでは、哲学は下火であったといえます。そんな中でもアウグスティヌスやトマス・アクィナスらは、哲学がキリスト教の教義に矛盾するものではないことを懸命に説こうとしました。真理を求めるという点においては、哲学も宗教も変わるところはないのでしょう。方法論が異なるだけです。とはいえ、絶対的なる神の存在を信じ、その存在による救済を求めようとする一神教の教えと、あらゆる存在を疑って自分にとっての真理を求めようとする哲学とでは根本的に異なるといえます。そんな中、ご指摘の仏教については、神が存在するわけでもなく、また自ら悟りを得るという点において、哲学に親和的だということができるでしょう。ブッダはあくまで最初に悟りを得ただけであって、その後に続く人たちは皆彼の方法に倣っているだけです。その意味では、哲学もまったく同じなのです。ソクラテス以後の哲学者、いや哲学する人たちは皆、彼のやり方にならって物事を疑い、本当のことを知ろうと問い続けているだけですから。だから私も仏教は哲学だと思っています。