小田部正明 (Masaaki Kotabe):技術革新によって既存のモノ(仕事も入れて)が新しい、そしてより効率的なモノに台頭されていく経済原理は1942年に経済学者のJoseph
Schumpeterが「創造的破壊」(Creative
Destruction)と言う名言で説明しています。現在のソフトウェアとかAIの著しい発展を見ていると、貴方の言う高度専門知識の必要な仕事も徐々には、「新しい、そしてより効率的なモノに台頭されていく」のは必然的だと思います。貴方の質問は、その変化が実際にはどのように起こっているかだと思います。私はアメリカの大学で教授職(研究者)を35年以上してきた経験から答えてみます。確かにアメリカは技術的に世界の最先端に位置し、大学教育方法も最先端にいました。コンピューター技術の発展で、1990年代初頭にはVirtual
Universityと言う概念が生まれ、大学の授業がバーチャル(現在のオンライン)化しはじめました。私がテキサス大学オースティン校にいた時に、私もこのバーチャルな授業を担当することを依頼され、私の授業がラテンアメリカの国々の大学に同時に放映されました。私は大きなスクリーンを通して現地の学生の様子も見ることができ、彼らからの質問を受け答えることもできました。当時はまだテレビのスタジオのような場所を使ってバーチャルな授業をしましたが、それから30年経った現在は同じバーチャル(オンライン)の授業がパソコンでZoomを使ってできるようになっています。私はバーチャル(オンライン)の技術の変化とともに、私の授業の準備の仕方も変わらざるを得ませんでした。勿論私がその技術の変化に対応していかなかったら(ないしは対応するのを拒否していたら)、大学で教える昔式の授業も無くなり、私自体が台頭されて行ってしまっていたと思います。現実には、技術の変化についていけない(いかない)教授の多くは高齢であり、時の流れの中で大学を自主的に辞めていくか退職していきました。特に若い教授達は技術の変化に対応していくことで、技術変化に台頭されず健在で仕事を続けています。その技術をうまく利用することによって、ベースになる授業をビデオにとっておいて、学生との討議だけは対面でするといった授業法も可能になり、新しい技術を受け入れた教授は実質上の授業時間数を少なくすることもでき、その余って時間を研究に充てることもでき、彼らの生産性も更に上がる(つまり俸給も上がる)ことにもなるので、まさにWin-Winの結果にもなっています。
結論として私が言いたいのは、技術革新と言っても多くは時間(年数)の掛かるものが多く、若い能力のある人達は技術革新の波に乗っていっているような気がします。勿論、その波を拒否する人達の仕事は台頭されていくことでしょう。当に、Schumpeterの言う「創造的破壊」が社会経済発展の宿命をうまく表現しています。