橋本 省二:銅線中の電子の速度は毎秒1ミリメートル? カタツムリ並みですね。遅すぎませんか?
隣の街まで電話するより郵便の方が速そうです。何かがおかしいですよね。どういうことでしょうか。
私のもっている金属中の電子のイメージはこうです。原子の外側のほうにいる電子は比較的はがれやすくなっています。原子がびっしり並んで金属をつくったとき、外側の電子は一つの原子にとどまらず、自由に行き来できるようになります。こういうのを自由電子といって、これのおかげで金属には電気が流れます。本番はここからです。電子は排他原理といって、同じ状態に他の電子が入ってくるのを許しません。エネルギーが低い、つまり運動エネルギーの小さい(ゆっくりしか動いてない)電子の状態はすぐに満席になり、余った電子は運動エネルギーの大きい(高速で飛び交う)状態に押しやられます。この時の電子の速度は毎秒1000キロメートル。全然違いますね。銅線のなかの電子はすごいスピードで走ってるはずです。ただし、方向はめちゃくちゃで、多くの電子があらゆる方向に走っています。
では毎秒1ミリメートルとは何のことか。これは銅線に電圧をかけた時に平均的に動く電子の速度ですね。一つ一つは超高速だけど、いろんな方向に走っているおかげで、平均的にはほとんど動かないというわけです。
一方で、電気信号は電子の平均速度ではなく、ほぼ光の速さで伝わります。秒速30万キロメートルです。電場の変化を伝えるのは電子ではなく、光子だからですね。電場の動きにしたがって電子も少しだけ動きを変えます。平均するとわずか秒速1ミリメートルの違いなんですね。長さ1光年の銅線は無理がありますが、とにかくスイッチを入れたという情報が伝わるには光が届くだけの時間は必要ということです。
トコロテンの比喩はやめておいたほうがいいと思いますよ。実態とのイメージの格差が大きすぎますよね。