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「紙の書籍・雑誌のメリットは何か」というのは難しいです。私が思い付く「紙の良いところ」というのは「メリット」という表現がそぐわない、情緒的なものが多いからです。メリット/デメリットというとどうしても「便利さ」や「役に立つ」という側面を述べたくなります。

そういう細かい言い回しはさておき、紙の書籍でもっとも大きなメリットは「存在感」だと思います。「この本はお父さんが書いたんだよ」と言いながら、自分が書いた本を子供に手渡すときの誇らしい気持ちというのは、電子書籍ではなかなか味わえません。やはり紙の本が持つ物理的なボリュームが必要になるでしょう。これは書き手としてのメリットです。

本棚に物理的に本を並べておき、その背を眺めているときの気持ちもまた紙の本ならではの存在感があるからです。ときどき本の順番を並べ替えたりするときの気持ちもまた格別です。自分の子供にさりげなく本棚を見せて、さまざまな分野に好奇心を持ってもらうというのも電子書籍では難しいでしょう。似ている視点では本の貸し借りなどもありますね。これは読み手としてのメリットです。

しかしながら、今後の技術の進歩にしたがって電子書籍のメリットはもっと大きくなっていき、相対的に紙の本のメリットは小さくなっていくのはまちがいないと思います。紙の本がなくなることはありませんし、現時点での電子書籍のレベルではまだまだですが、将来的には確実に「電子的に読む」ことが一般の読書を意味することになるでしょう。将来的に多くの人が、電子的に読むことに対しても、紙の本に対する情緒的な思いと同じ思いを抱くことになると思います。

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結城浩

EngineerWriter

本を書いて生活しています。著書は『数学ガール』『プログラマの数学』『数学文章作法』『暗号技術入門』など多数。文章を書くこと、学んだり教えたりすること、プログラミング、数学、人と人とのコミュニケーションなどに関心があります。詳しい活動内容は https://mm.hyuki.net/n/n5f00c9cd281c をご覧ください。アマゾンの著者ページは https://link.hyuki.net/amayuki にあります。なお、私は数学読み物を書いていますが、数学科出身でもありませんし、数学の研究者でもありません。2014年度の日本数学会出版賞を受賞しました。〔ゆうき・ひろし〕