十文字青:正直に言って、物語を膨らませるのに苦労したことはありません。僕は何もないところから物語を生みだしているわけではなく、これまで先人が生み出した多くの物語に接してきて、それが僕の想像、妄想のもとになっているのだと思います。意識している、していないにかかわらず、です。 エンターテイメントの業界では、ゼロイチができる人は強い、という言い方をする人がよくいます。どうやら、何もないところから物語の骨組みのようなものを作り上げることを、ゼロからイチを作る、というふうに表現しているようです。 これは大きな勘違いです。 いわゆるゼロイチができる人はほとんどいません。僕が思うに、一人としていないでしょう。 巨人の肩の上に立つ、という言葉をご存じでしょうか(もし知らなければ検索してみてください)。僕たちは好むと好まざるとにかかわらず、また、意識的にでも、無意識にでも、知らず識らずのうちに、今まで生きて死んでいった人びとが築いてきた歴史の上で生きています。僕が生みだす物語の基礎には、必ず歴史上の人びとが生みだしてきた物語があります。 僕は今まで読んだり見たり聞いたりしてきた全ての物語に影響されて、今日も明日も物語を作ります。もし僕の物語にわずかでも影響を受けた人がいたとしたら、僕がこれまで読んだり見たり聞いたりしてきた全ての物語の影響を受けているということです。 こうして僕らは物語を繋いでゆきます。物語だけではありません。ありとあらゆる経験、想像、夢想までも、僕たちは繋ぎ、そして膨らませてゆくのです。 あなたの物語が思うように膨らんでくれないのなら、もっとたくさんの物語に接してください。貪欲に、読んで、見て、聞いてください。 僕には語りたい物語がいくらでもあります。尽きることはありません。それは、日々、たくさんの物語に接しているからです。それが僕の日常だからです。 あえて、僕が多大な影響を受けた作家については、挙げません。それは僕が知っていればいいことです。他の誰にも関係ないでしょう。 もっとと、僕が誰の影響を受けているのか、わかる人にはわかると思います。どうせなら、是非、当ててみてください。そのほうが、僕が適当に答えるより、ずっと面白そうです。(Read more)