「人の名前を覚える」について。私は研究者ではありませんが、一般的な話題として思うことを書きます。

私も名前を覚えることは苦手で、歴史も苦手です。◯◯史と呼ばれる分野はどうにも苦手です。

でも、文章を書く仕事をしているうちに、たとえ自分が苦手だとしても名前に対する敬意を持ち、しっかりと扱い、必要に応じて記憶に留めるのは大事であると思うようになりました。そして実際、自分が本に書いた範囲では名前を十分に調べますし、記憶にも留められるように思います。

やや研究寄りの話になるかもしれませんが、ある分野について研究を進めるにあたって「その名前を知らないというのはありえないだろう」という名前があります。ごくわかりやすい極端な例を出しますと「物理学が好きで、よく勉強しています」という人が「アイザック・ニュートン」という名前を知らないとしたら「おいおい」と思いますよね。

物理学でニュートンを知らないとしたら、ちょっとそれは……と思います。それはなぜかと考えると、物理学に触れているならば、必ずぶつかる名前だからです。この話を延長させて考えるならば、とある分野について調べれば調べるほど、あるいは考えれば考えるほどその分野に貢献した人の名前に触れる機会が多くなるといえるでしょう。

それがすべてではありませんが、「どんな名前をどれだけ覚えているか」は、その分野の研究をどれだけ深く行い、どれだけ長い時間を掛けて接しているかどうかの一つの指標にはなるのではないでしょうか。それは、あなたが書いておられるように、第一線で活躍する人が名前を多く知っていることの傍証になるでしょう。

しかし、あなたが質問の最後に書いているような「第一線で活躍するような人になるためには、人の名前を覚えるという能力を意識して身につける」というのは、因果関係が逆になっていると思います。人の名前を覚える能力を身につけたから第一線で活躍するのではなく、第一線で活躍するような研究なり活動なりをしていると、人の名前もよく知るようになるのだと思いますがどうでしょう。

話はそれますが、私は本を買うときには「著者買い」をよく行います。つまり、以前読んだことのある意義深い本の著者名をよく覚えていて「同じ著者が書いた本だから、同じように信頼できるだろう」という期待を持って買うのです。名前は識別子です。ひとつの仕事の内容や品質に対する評価を、名前という識別子と共に記憶することは、べつの仕事の内容や品質に関するメタ情報として有益であると思います。

2022/01/18Posted
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