菅原 琢 新刊『データ分析読解の技術』重版御礼:無投票や議員定数割れの問題は、「政治家志望の絶対数」で考えてしまうと理解できなくなってしまいます。その意味では、この疑問は正しくありません。
単に政治家になりたいというのが立候補の動機であれば、ある市議選で落選しているような候補は、議員定数割れになりそうな他の自治体で立候補すればよいはずです。たとえば世田谷区議選では25人が落選しましたが、この候補が全国に散らばって立候補すれば、無投票や定数割れは一挙に減ったでしょう。でも、落選者のみなさんはきっとそんなことをしたくはないですよね。世田谷だから立候補した人が大半でしょう。
ほとんどの場合、議員の候補になる際には、政治家になりたいという一般的な希望よりも前に、その所定の範囲の政治に関わりたい(あるいは関わるべき)という個別的な理由があるはずです。その点では、絶対数(ここでは「総数」の意味と解しましたが、間違っていたら言ってください。)という概念を導入するのは適切でなく、個々の政治の範囲ごとに政治家の需要と供給を確認し、供給不足の要因を考察すべき、ということになります。
以上が回答ですが、これを踏まえて少し私見(仮説)を述べておきます。政治家のなり手不足が叫ばれ、無投票、定数割れとなった自治体の多くは、大都市圏ではなく地方の、かなり農村の、人口が減少し産業も衰退しているような地域にあるように思います。
仮にそうだとすれば、そうした地域で政治家のなり手が不足するのは必然です。政治というのは、利益だけでなく損失を配分するものです。そして、利益と損失は時間と空間にまたがって偏在するものです。
自治体の政治の仕事が利益配分なら、それに積極的に関わりたいという人が多く現れます。でも、損失の配分に関わらなければならないとしたら、みんなやりたくないですよね。どの分野の予算を減らすか、どの地域の道路改修を後回しにするか、どのように小学校を統廃合するか、こうした悩ましい問題が多くなればなるほど、誰も政治に関わりたくなるわけです。
町内会や集合住宅の理事会、PTAのような組織で、仮に活動時間に見合った(最低賃金レベルの)報酬があったとしても、積極的に役員になりたがる人はおそらくそんなにいないでしょう。自分にとって旨味が無く、気苦労ばかりになる仕事は、それに見合った報酬がなければやりたくないものです。