橋本 省二:反物質をタンクにためて少しずつ物質と反応させる。エネルギーを取り出してエンジンにすればコンパクトで省エネが実現!
すばらしいアイデアですね、と言いたいのですが、かなり無理筋です。製品化されたという話も初耳です。いったいどんな話なんでしょう?
水素エンジンとちょっと似てますよね。わずかな量で大きなエネルギーを取り出せる。夢のエネルギー源だ!
と宣伝されていますが、いざ水素を作ろうと思ったら化石燃料から化学反応を使って取り出すとか大変な作業が必要で、単純に燃料を燃やすのとくらべて圧倒的に省エネになっているかとそんなことはなさそうです。
反物質はもっとだめなんです。いったん反物質ができてしまえば、アインシュタインの E=mc^2
にしたがって化学反応(燃焼とか)とは何桁も大きなエネルギーを取り出せますが、残念ながら反物質はどこにもないんですよね。化学反応でも作れません。宇宙から降ってくる宇宙線のなかに少しはあるでしょうけど、1個2個ならともかく、エネルギーになるほど集めるのは大変です。すぐに通常の物質と出会って対消滅してしまいますから。
唯一の解は、加速器。粒子を光速近くまで加速して標的にぶつけ、そのなかから粒子・反粒子の対生成で出てきたものを集めればいいわけです。ただし、残念ながら恐ろしく非効率的で、作られた反粒子のもつエネルギーの10倍とかたぶんそれ以上のエネルギーをつぎこまないと反粒子を作れません。それでは省エネどころの話ではない。
作った反物質をためておくのも一苦労です。なにしろ物質と出会うとすぐに対消滅なので、真空中に浮かべておくしかありません。電場と磁場をうまく工夫して浮かべる。でもそれではまとまった量を扱うのは無理そうです。魔法瓶にためるみたいに簡単な話ではないんです。
そういうわけで、だめな理由ばかり思いつきますけど、そんなことばかり言ってたらイノベーションなんてできませんよね。ぜひ考えてみてください。(でも絶対無理だと思うけど...
。)
追記です。
ご指摘いただいた通り、陽電子の実用化という意味では陽電子断層撮影法(PET)というのがあります。数分でベータ崩壊(ただし陽電子を出す、普通のは逆のやつ)するような放射性核種を体内にいれてやって、徐々にでてくる陽電子が周囲の電子と対消滅して出すガンマ線を測定する装置ですね。その核種が体のどこかでたまっていたら、その様子を見ることができるわけです。代謝のよいがん細胞のところがよく光るので分布がわかるとか、そういう使いかたをするのだと思います。
あまりだらだらと放射能が残る核種だとまずい(被曝する)ので半減期が数分のものを選ばないといけません。そういうのは買ってきて置いておくわけにいかないですよね。すぐなくなっちゃうから。病院内に加速器を置いてその場で作ることになります。どっちにしろ反粒子をためておくわけではないんです。