大谷栄治:政党のマニフェストには,基礎科学のみならず科学技術政策と言われるものほとんど見当たらないと思います.それは票にならないからでしょう.これは,政党,政治家側の責任のみならず,物言わぬ科学・技術者および国民に問題があると思います.失われた十数年の間,金融政策のみで,社会変革の無策と先送りのために,現状に難問が山積してしまいました.少子化問題,電力エネルギー問題をはじめとして,会社のイノベーションや元気さの不足,社会のIT化の遅れ,必要なIT人材の枯渇など難問が一挙に顕在化しています.必要な理系人材,IT人材も不足しており,IT化に必要な社会人の再教育も不十分です.また,基礎科学の分野で非常に心配しているのは,研究を行った際の論文のもとデータや標本資料などについて世界の主要国は10年以上前からその重要性に気付き,データーレポジトリー(データバンク)の構築に努力してきました.米国,ヨーロッパ(特にドイツ),中国など主要国は国を代表するデータレポジトリーがすでにできています.そして,最近では,私たちが国際誌に論文を発表する場合に,論文の結論の証拠として,誰でもデータにアクセスできることが条件になりつつあります.国によっては,国内の研究者のデータを海外に流出させないように巨大な容量のレポシトリーを構築している国もあります.日本の取り組みは周回遅れで,データレポジトリーができている国立の研究機関などに所属する数少ない研究者を除いて,大学などの多くの研究者は欧米のレポジトリーを使わせてもらっているのが現状です.それは,大事なデータが国外に流出するのを放置しているということです.この状態を早急に改善しないと5-10年後には日本はデータの蓄積のない科学・技術の後進国になります.政府はEXとは言ってはいますが,科学技術データの保存への対応が十分な財政的な支援がなされず非常に遅れているのが現状です.このような危機的な状況を改善するには,すでに遅すぎるかもしれませんが,政治家や政府への積極的なロビー活動をする時期に来ているのではないかと思います.戦後日本の科学・技術者たちは,政治家に働きかけることは,倫理的に避ける傾向にありましたが,むしろできるだけコミュニケーションを盛んにするように学会や学界を変えてゆく必要があるのではないかと思います.しかし,ことの重要性と緊急性を認識している人は,まだ少ないのが現状です.(Read more)