山中 大学 (Manabu D. Yamanaka):現行の制度では,科学界と行政・政界を繋ぐために日本学術会議があるのだと思いますが,前首相時代に顕在化した不幸な関係があり,完全には機能していないのは残念な限りです.具体的には新型コロナ感染やそれで顕在化したデジタル関係でも明らかなように,(諸外国と比べて)日本では(科学に限らず文化・芸術・スポーツを含めあらゆる)分野を専門的に理解した政治家や,それを生み出すべき行政能力のある専門家が極めて少ない,というか育成され(る体制になっ)ていません.こうなったのは専門家側にも政治家側にも問題があると思います.専門家側では,日本の各専門分野ではともすれば専門家としての大成(研究成果とか試合成績とか)のみが評価され,管理面・教育面・支援面などの能力は余り評価されません.一方,政治家側では,本来はそのためにあるはずの参議院の(以前の全国区や)比例区に専門家を登用しなくなってしまいました.勿論,後者もそうしてしまったのは結局は専門業界を含めた国民の投票なので,現状を打破するには専門業界の国民へ向けた広報の充実と,それを受けた国民の意識向上が必要だと思います.(Read more)
杉本憲彦:国民に向けてその政党への投票を促す選挙のマニフェストでは、基礎科学関連よりも国民の関心が高い政策により力を入れているのだと思います。それはある意味、日本の国民の基礎科学関連に対する意識、知識の低さを表しているのではないでしょうか。 研究者側は研究費で文科省とやり取りすることはあっても、なかなか基礎科学関連の政策部分にまでは声を上げられていません。特に若手研究者の雇用(ポスドク、雇止めなど)や女性研究者への支援の拡充の問題など、当事者が直面している問題に対して、当事者自身が声を上げる余裕がないことがほとんどです。私も名古屋でポスドクをしている時は、生活していくために塾講師のアルバイトをしていました。研究とアルバイトでそのような問題に対して声を上げる時間も方法もありませんでした。 最近では、このような問題に関して、共通の経験をした有志の若手研究者が各分野で活動していて、学会として声を上げる、などの活動が行われるようになってきています。政党のマニフェストにも少しずつ意見を取り入れて欲しいと思う一方、研究者を取り巻く環境について国民に知ってもらい、社会全体で基礎科学を支えられるようになってほしいと願っています。(Read more)
大谷栄治:政党のマニフェストには,基礎科学のみならず科学技術政策と言われるものほとんど見当たらないと思います.それは票にならないからでしょう.これは,政党,政治家側の責任のみならず,物言わぬ科学・技術者および国民に問題があると思います.失われた十数年の間,金融政策のみで,社会変革の無策と先送りのために,現状に難問が山積してしまいました.少子化問題,電力エネルギー問題をはじめとして,会社のイノベーションや元気さの不足,社会のIT化の遅れ,必要なIT人材の枯渇など難問が一挙に顕在化しています.必要な理系人材,IT人材も不足しており,IT化に必要な社会人の再教育も不十分です.また,基礎科学の分野で非常に心配しているのは,研究を行った際の論文のもとデータや標本資料などについて世界の主要国は10年以上前からその重要性に気付き,データーレポジトリー(データバンク)の構築に努力してきました.米国,ヨーロッパ(特にドイツ),中国など主要国は国を代表するデータレポジトリーがすでにできています.そして,最近では,私たちが国際誌に論文を発表する場合に,論文の結論の証拠として,誰でもデータにアクセスできることが条件になりつつあります.国によっては,国内の研究者のデータを海外に流出させないように巨大な容量のレポシトリーを構築している国もあります.日本の取り組みは周回遅れで,データレポジトリーができている国立の研究機関などに所属する数少ない研究者を除いて,大学などの多くの研究者は欧米のレポジトリーを使わせてもらっているのが現状です.それは,大事なデータが国外に流出するのを放置しているということです.この状態を早急に改善しないと5-10年後には日本はデータの蓄積のない科学・技術の後進国になります.政府はEXとは言ってはいますが,科学技術データの保存への対応が十分な財政的な支援がなされず非常に遅れているのが現状です.このような危機的な状況を改善するには,すでに遅すぎるかもしれませんが,政治家や政府への積極的なロビー活動をする時期に来ているのではないかと思います.戦後日本の科学・技術者たちは,政治家に働きかけることは,倫理的に避ける傾向にありましたが,むしろできるだけコミュニケーションを盛んにするように学会や学界を変えてゆく必要があるのではないかと思います.しかし,ことの重要性と緊急性を認識している人は,まだ少ないのが現状です.(Read more)