私が書いているのは技術書と数学物語なので、純粋(?)な小説とは言い難い部分がありますが、「タイトルを決定するプロセスと著者の判断」の一例ということでご回答します。

本のタイトルは基本的に著者が決めて、出版社の編集担当者に伝えます。その際に、本の内容も合わせて伝え、そのタイトルの妥当性についても著者側から説明をします。

編集担当者は出版社の中にあって、ある意味では著者の代理人として動くことになる(動いてもらいたいと著者は考える)ものですから、編集担当者に本の内容を「理解」してもらうことは非常に重要であると思います。

タイトルに関して、編集担当者と著者で意見が分かれる場合には話し合いになることもあります。でもそれはあくまで建設的なやりとりであって、「こうせねばならない」と言ったり言われたりする「強権発動」のような事態になることはありませんでした(これはあくまで私個人の経験です)。

タイトルに関して意見を寄せるのは、編集担当者だけではありません。出版社の宣伝・営業を担当する部署からも間接的に意見がやってくる場合があります。出版社内の会議(著者は参加しない)で出された意見は編集担当者経由で私のところに送られてきます。

そのケースであっても、これまでに「強権発動」的な事態になったことはありません。宣伝・営業を担当する部署からやってくる意見としては「このタイトルだと売れない/売りにくい」という観点からのものになります。それは当然ですね。著者としてはその意見を一蹴したりはせず、実際のところどうなんだろうかとちゃんと考えます。

著者にとってタイトルは思い入れを持ってつけるものですし、たとえばシリーズものの場合には今後の展開と関係する場合もあります。しかしながら、著者の思い入れとは別に、一冊一冊作っていく本は、読者の目に止まり、手に取って読んでもらう必要があります。そのためには、思い入れが強い著者(私)とは違う方向から来るタイトルの提案に耳を澄ますことは無駄ではないと思っています。

具体的には挙げませんが、これまでに自分が最初につけたタイトルについて、修正案をもらったのは数回あります。そのほとんどが、私自身「なるほど」と言えるものでしたから、修正案に寄せたタイトルに変更しましたね。著者と出版社で押し問答になるようなケースはありませんでした。

著者として私がタイトルをつける場合でも、修正案を検討する場合でも、どのような基準で決めているかというと、読者に適切に伝わるかどうか、読者の期待を裏切ることがないかどうかを考えて決めます。

結城は《読者のことを考える》というのが本を書くときに大切な態度であると思っており、タイトルも例外ではありません。著者は本の内容や構成や意図をもっとも詳しく知っているはずの存在ですが、だからといって常に完全に正しい選択ができるとは限りません。なのでその本を売る立場にある出版社からの意見も十分に参考にします。自分の案と、出版社からの修正案とを見比べて、読者に伝わる方を選ぶということです。

なお、以上書いてきた話はあくまで私の場合の一例にすぎません。こういうプロセスは、著者と出版社との関係性に大きく依存しますので一般化は難しそうです。

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ちなみに、こちらはタイトルをあれこれ考えていたようすを描いたノートです。

『数学ガール/ガロア理論』の作業ログから(本を書く心がけ)|結城浩

https://mm.hyuki.net/n/nc901a5e84591

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