小川仁志:人の考えというのは、様々な要素から成り立っています。その人の持って生まれたものもあるでしょうが、多くは環境によって形成されてきたものだと思います。いわばその人の人生の産物なわけです。ということは、人の人生が千差万別であるのに比例して、人の考えも千差万別であるということになります。考えが似ていることや、一見気が合うと感じることはあっても、まったく同じなどということはあり得ませんよね。最初意気投合しても、仲たがいしてしまうのはそうした理由からです。似ているのは表面的な部分だけなのですから。ということで、まず他者とは考えが違うということが大前提です。そのうえで、そんな他者とうまくやっていくためにはどうすればいいか？　考えが違うのだから、両方が歩み寄るか、どちらかが合わせるかのいずれかです。両方が歩み寄るというのは理想ですが、相手に変わる意志がない場合、これは困難です。そうすると次は、いずれかが歩み寄るということになります。この場合も相手が歩み寄るならいいですが、それができるなら苦労しません。したがって、結局は自分が歩み寄るよりほかないのです。問題は、その歩み寄り方です。単に従うだけだと苦痛です。今の状況はまさにそうなのだと思います。そこでお勧めしたいのは、相手を変えるのでも、避けるのでもなく、「包み込むこと」です。距離が置けない場合は、そうするよりほかありません。だからといって、無償の愛で受け止めるなどというハードルの高い話ではありません。受け入れるというのとも少し違います。もっと冷静で消極的な態度です。あくまで自分の中に無害なものとして位置づけるということです。苦い薬をオブラートで包み込むイメージです。たとえば、冬寒いのはある程度仕方ありませんよね。でも、私たちはそんな冬を当然のものと思って、生きています。なんとか有害なものにならないように工夫しているはずです。それと同じなのです。そのためには、相手をよく理解する必要があります。冬を理解するのと同じです。そうすればうまく共存していけるのではないでしょうか。愛する必要も、受け入れる必要もありません。逃れられない以上、そうやって包み込んで生きていくしかないのです。でも、うまく包み込むことができれば、少なくとも苦痛ではなくなるはずです。