川原繁人:可能だと思います。ただし、(少なくとも私の場合)共同研究を通じて、という条件付きです。共同研究であれば、自分のドストライクの分野でなくても、研究は十分可能です。ただし、共同研究をするにしても、考えるための基礎となる部分は共有してなくてはなりません。
アメリカの大学院では、始めの二年間は「あまり専門を狭めないで言語に関して広く考えなさい」といろいろなコースを履修させられました。私は結果として音に関する学問を専攻することになりましたが、文の仕組みや意味に関する研究、単語の成り立ちに関する研究などのコースを履修しました。また、修士論文(のようなもの)を二本、別々の言語学の下位分野で書かなくてはならず、それに加えてbreadth
paper(修士論文ほどしっかりしていなくていいから、研究の幅を広げるための論文)も求められました。心理学や音声工学の授業も履修するように薦められましたし、実際にいくつか履修しました。意味論を専攻する友人の中には、哲学の授業を履修してた人もいましたね。
実際に学問をおこなっていると、すべての学問はつながっているように感じられます。ですから、ひとつの分野を突き詰めるためにも広い視野を持つことが大事で、すると自然と複数の分野にまたがった研究をすることになります。もちろん、他の分野には目もくれず、ひたすらに己の学問分野だけを追求する人もいらっしゃいますし、そういう方々を羨ましく思うこともあります。