小田部正明 (Masaaki Kotabe):私の場合はアメリカの大学に40年近く在籍していたので、アメリカの観点から答えてみます。皆様もご存じのように、日本と同じように私立大学と国立(アメリカでは州立)大学があります。アメリカの州立大学に焦点を当ててみます。私は以前テキサス大学オースティン校に在籍していました。アメリカの名門州立大学の1つです。州立大学だから州政府の資金に頼って運営されているかのように思われますが、実際は州からの運営資金は全体の15%未満です。つまり、州立大学とは名がつくも、85%強の運営資金は(研究費も入れて)私たち研究者が調達してこなければなりません。私の在籍していたビジネス・スクールでも、資金確保のため経営者への教育(Executive
Program)を大学で提供したり、特定会社向けの専門的なExecutive
Programなどを多く提供することにより、企業人に役に立つ斬新的な教育を開発してきました。金儲けのように聞こえるかもしれませんが、アメリカの一流大学はこのような形で実践に役に立つ教育を開発するのに基礎研究を重ねてきています。アメリカの大学にノーベル賞受賞者が多いのも斬新的な研究成果が多いのも、そして大学のフットボール、バスケットボールのようなスポーツも一流であるのは、州政府などが必要な運営資金をくれないため、大学が必要な資金を稼いでこなければなりません。日本の大学の場合は、国立大学の運営費の多くは国の財源に頼り、また日本の私立大学の早稲田ですら事業収入・雑収入を含めて全体収入の10%以下です。そのように見てみると、日本の大学はお金儲けに力を入れず長期的な基礎研究ができる環境とも見えますが、実際には、あくせくと資金を稼いでこなければならないアメリカの大学の研究者の方がよりよい基礎研究ができている現実を考えると、アメリカのようなシステムの方がより効率的に研究を可能にしているのではなかろうか。日本の政府が10兆円規模の大学ファンドを提供するようになると、ファンドは使うものの益々非効率的に資金の使う形になり、研究成果が落ちてしまうのではないでしょうか。それが心配です。