大谷栄治:確かに不思議に思われますね.ご質問の答えには地殻での金の鉱床のでき方と地殻・マントルと核の金の元素分配という二つの問題を含んでいます.
金の鉱床は,マグマ中に微量に含まれる金は,マグマから分離する熱水に溶け込みます.超臨界や亜臨界状態の熱水は,通常の高温状態では溶けにくい様々な物質を溶かし込みます.自然界ではこのような熱水にシリカ成分とともに,金などの貴金属成分も溶け込みます.この熱水が繰り返し岩盤の割れ目に流れ込み,その熱水が冷える際に,そこから金が沈殿します.この作用が長期間続くことによって,花崗岩体などの割れ目にシリカの脈とともに金の鉱床ができます.平均的には微量な金も,地質学的に長い期間にわたる熱水からの繰り返しの沈殿によって濃集し金鉱脈ができます.
金は,ご指摘のように鉄ニッケルと合金を作りやすい元素です.ニッケルは鉄と合金を作りやすいので親鉄元素と呼びます.金や白金などは,非常に鉄と合金を作りやすいので強親鉄元素と言います.マグマと比べて,ニッケルは金属鉄に10倍ほど含まれます.一方金はマグマに比べて金属鉄に100倍以上も含まれることが判っています.したがって,ご指摘のように地球の核には地球上の金のほとんどが含まれていると考えられ,地球中心の核は金など貴金属の宝庫と言えます.しかし,もともと金は太陽系には希少な元素で,鉄ニッケル合金のほんの10^(-6)程度しか含まれません.したがって,鉄とニッケルからなる核に金の鉱床を作るには,そこに含まれる金がさら濃集するメカニズムが必要になりますが,地球の核は135万気圧を超える超高圧であり,温度も4000度を超えますので,そのような極端条件で金を濃集するメカニズムがあるのかについては,全く判っていません.つまり,核には地球のほとんどの金が集まっていますが,それは金鉱脈のように局所に濃集せず金鉱床を作っていないと想像されます.また,そのような金鉱床があったとしても,核に達する3000kmの深さまで採掘に行くのは現状では不可能です.