福島真人:宗教には大きく二つのタイプがあり、これを1)共同体の宗教、2)救済論、と分けます。前者はあるコミュニティが共有している民間信仰のようなもので、儀礼を中心に緩くまとまっているようなもの。後者は特定の教祖から出発して、組織化されたものです。前者は初詣のようなもの、後者ははっきりとした教義があるもので、教義としての仏教やキリスト教のようなものです。
ユダヤ教は旧約聖書を見てもわかるように、律法という形で事細かに生活上の義務が規定されており、ユダヤ民族の生活と密接にかかわってますが、キリスト教においてそうした律法の体系は破棄されて、救済論として世界中に広まり、世界宗教化しました。それゆえ特定の民族との関係はないわけです。ちょっと微妙なのがイスラームで、ユダヤ教同様の法的規定が細かくあり、他方で世界化したわけですが、世界宗教のためムスリム人とは普通言いません。ただしボスニア・ヘルツェゴビナでだけは、なぜかその一部のムスリムをムスリム人と呼び、それは他のキリスト教系の諸民族と区別するためのようですが、これは例外です。