川原繁人:できると思います。自分の学問上の成果を「偉大なこと」と表現するのは憚られますが、少なくとも自分は家族との時間を大切にしながら、研究を進めていますし、家族がいたからこそ成し遂げた研究成果もたくさんあります。例えば、私の専門は音声学ですが、娘たちがどのように日本語の音声を身につけていくのかを観察しながら、自分の中でも新たな気付きがありました。妻も言語学者ですが、一緒に子どもの言語発達の過程を観察することで、共同研究につながっています。子どもが容赦なくぶつけてくる言語に対する質問から研究のヒントをもらったこともあります。
公私混同と言われればそれまでですが、今では自分の研究と家庭は切り離せないものになっています。家族を持ちながら、研究を続けることは十分可能だと思います。
私は、どちらかと言えば逆方向(つまり研究のために家族の時間を犠牲にしないこと)が苦手でした。しかし、それも意識次第ですね。週末は家族との時間にあてて、仕事用のパソコンは電源を入れない。平日も、夕方の特定の時間以降はパソコンを落として家族との時間に集中する、など工夫を取り入れています。正直、家族との時間も大切にするために、海外の学会などはほとんど参加しなくなってしまいましたが、オンラインでつながれる時はつながりますし、この問題も工夫次第かと思います。