山内志朗:いいですね、スピノザに関心を持つのは。昔、大江健三郎がノーベル賞をもらって、スピノザの『エチカ』をじっくり読んでみたいとインタビューで語っていたのを覚えています。魅力なのですが、自分で読むとほとんど、いや必ず挫けてきて、読むのがいやになります。その辺を百も承知で無味乾燥に書いて、本当のファンしか寄せ付けないようにしておくスピノザの心配りに痺れるようになるとスピノザ・ファンになれますね。スピノザは文字や分ではないのです。その背後に控えているマグマの熱を感じられるかどうかでしょうね。國分功一郎氏の『スピノザ』(岩波新書)は、最近出た格好の入門書です。でも、スピノザが活火山であることを知ろうとしたら、ヘルダー『神』(法政大学出版局)あたりが個人的にはお勧めです。もちろん、かえって迷子になるのは確実ですが、18世紀ドイツにおけるヤコービが引き起こしたスピノザ論争の実情を知ると、「へー、へー」と驚いてしまいます。私も、大学院のときに坂部恵先生のゼミでヘルダーの『神』をドイツ語で読んで、だったらハーマンも読まないとということで、理解不可能なドイツ語原文で悩まされました。で、スピノザの入門書となると、自分で『エチカ』を悪戦苦闘して、お経のように音読しながら、分からないまま迷い続けるのがお勧めです。早わかりを求めて、「スピノザが分かった」と思うとき、スピノザは遠くに逃げ去っていると思います。私もスピノザは分かりません(死ぬまで分かりませんし、分かるつもりで読んでいるわけでもありませんが)が、親しげに語りかけてくれます。