橋本 省二:難しい研究をわかりやすく伝えたい。一般の方に少しでも関心をもってもらいたい。あるいは、売れる雑誌にしたい。最新の研究はどうしたって難しいですから、比喩を取り入れておもしろおかしく説明するわけです。ブラックホールはもともと人気ですから、ちょっとしたことでも話題にしてもらえるかもしれませんしね。
基本に戻りましょう。ブラックホールはそもそも光を出さないので、望遠鏡を向けても何も見えません。そういうのが太陽系の近くを漂っていたとしても普通はわからないですね。もしかしたら、まっくらなブラックホールが遠くの銀河から届いた光を曲げるせいで銀河の像がゆがみ、そこに何かがあると気づくこともあるでしょう。そうでもしないとブラックホールの存在を知ることはできません。
では、見えているブラックホールはなぜ見えるのでしょうか。それはもちろん、そこに落ちていく物質が光るせいです。ブラックホールのまわりにあった物質が強い重力に引かれて渦巻き状にぐるぐる回りながら落ちていく。近づくと強い潮汐力のせいで摩擦が生じ、熱を出して光るようになります。そうしてできた光が見えたら、その中心にはブラックホールがあるに違いない。
では、休眠ブラックホールとは何か。たぶん、周りの物質がすべて落ちてなくなり、光らなくなったブラックホールのことですね。(あるいは、周りの物質が何らかの事情で他の重力源に持ち去られたという可能性もあるようです。検索したらそういうプレスリリースが見つかりました。)
では、飽和とはどういうことか。たぶんForbesの記事のことをおっしゃっているのだと思いますが、英語の元記事を読んでみると、どうやら「(お休み中のライオンみたいに)もうお腹いっぱいなので怖くない」という言い方をしているようです。「我々が気づかないうちにブラックホールが近づいてきた。何でも吸い込んでしまうブラックホールだけど、もうお腹いっぱいだからこわくないね」という感じの擬人化した表現なんだと思います。もともとは比較的近くにいるブラックホールを発見したという記事ですね。他の恒星がその周りを回っているのを観測したとのこと。ブラックホールの重力に活動中も休眠中もないし、お腹いっぱいもない。やりすぎると混乱しますね。