小田部正明 (Masaaki Kotabe):貴方の質問は2つの別の問題のような気がします。第1に日本のソフトウェア産業が立ち遅れた理由には大きく2つの理由があります。1つ目は、日本の技術は世界に劣るものではないのですが、日本の技術の発展が国内独自のもので世界では汎用性のない「ガラパゴス化」してしまったため、世界で採用されないでしまったことが挙げられます。例えば、NECのPC(そしてNECの立ち上げたインターネットサービスプロバイダーBIGLOBE)は1980年代から1990年初頭にかけて、実質上日本独自のドミナントな標準でした。その後、世界の標準化を狙って導入されたIBMのPCとMicrosoftのオペレーティングシステムは、競争会社であるCompaqやDell
Computer等々も所謂、IBM-CompatibleのPCを生産し、互換性が高いため徐々に世界レベル(日本を含めて)で市場占有率を上げていきました。ある意味ではNECのPCが先駆者で技術が遅れていた訳ではないのですが日本だけの市場に限られ、後発型のIBM/Microsoft系のPCが世界の主流になってしまいました。1999年に導入された世界最初のInternet接続のNTT
DocomoのiMode携帯電話も日本独自の(素晴らしい)先駆者技術だったのが、海外ですぐに採用できる技術ではなかったので、後発型のAppleが2007年に市場に導入された汎用性のあるインターネット接続のiPhoneが世界の主流の1つになってしまっている。2つ目は、NECにしてもFujitsuにしても1980年代にはIBMに劣らないメインフレームコンピューターを開発していたのだが、そのコンピューターを使って色々な企業の会計管理や人的資源管理を代行して運営するというエンタープライズリソースぷラニング(ERP)サービス産業が台頭してきたときに、IBM等は世界レベルで汎用性のある(標準化された)ERPソフトウェアを開発し、大規模な多国籍企業などが採用しています。ところが、日本のFujitsu等は、日本市場を始めとして個々の企業の管理の特性に合わせながらカスタマイズされたERPソフトウェアを開発しました。その為、顧客の会社ごとにソフトウェア開発をするため顧客は満足するのですが、コストが上がり汎用性もなく世界レベルでは採用されませんでした。ある意味では、この日本型の過度な「顧客志向」が汎用性のある世界全体で使えるERPソフトウェアを開発できなかった理由に挙げられます。
第2に、中国のソフトウェア産業の台頭は、貴方が言うように多数の優秀な中国人学生がアメリカ等の大学に留学し、高度なハードウェア、ソフトウェアの技術を学び、アメリカのハイテクの企業で働く経験もあり、彼らが中国に帰化して技術を持ち帰っていることが挙げられます。また、中国は国の方策としてコンピューター産業を擁護したことも上げられます。そして、急成長をしている大規模な中国市場の存在が中国のソフトウェア産業の存在感を増しているのも事実です。そして最後に、アメリカのソフトウェアの企業(MicrosoftやApple)が中国にソフトウェア開発のアウトソーシングを高めていることも上げられます。