川原繁人:非常に難しい質問ですが、私の専門とする音声に限っていえば、音同士の近似性を物理的な尺度を用いて計算することは十分可能ですし、さまざまな試みがなされてきました。簡単な尺度でいえば、母音を特徴づける音響尺度に、第一フォルマントと第二フォルマントというものがあるのですが、ふたつの母音の距離は、第一フォルマントと第二フォルマントに基づいたユークリッド距離で定義することができます。もちろん、音響信号全体の特性に基づいて距離を計算することも可能です。ただし、こうなると計算もかなり複雑になりますし、人間の耳が音響信号のすべてを聞いているわけではないので、労力に見合った結果がでるかは微妙ですが。
また、言語同士の近似性となると、かなり複雑な要素が絡まってくるので、そうとう難しいと思います。それが単語レベル、文レベルとなると考慮しなければならない要素が多すぎて(言語同士で何が何に対応しているのかすら難しいですからね……)、客観的な指標というものを得ることはかなり難しいでしょう。
ただし、言語類型論という言語の比較を専門とする学問では、一定の抽象化をおこなったのちに言語のある特性を比較するという方法は提唱されているようです。私の専門とする分野でこの手法を用いたのはこの論文ですかね。かなり有名になりました。