小田部正明 (Masaaki Kotabe):結論から言いますと、多少は日本国内の雇用慣習を多少考慮しますが、それを基に米国企業の日本子会社が日本の雇用慣習に合わせて雇用環境を日本式にすることは基本的に考えられません。私は米国企業が日本国内で人を雇用する際の実際の契約書を多く見たことはないですが、第1に雇用契約書の中に「米国国内の慣習に従って」ないしは「米国本社の慣習に従って」雇用するというような条件が書いてあると思います。つまり、日本の雇用慣習は認めているものの、米国の雇用慣習は違うということを意味しています。この条件が明記されていれば、日本国内で解雇された従業員が何らかの訴訟を起こしても、日本の裁判所では特別に解雇の理由が不当でない限り却下されてしまいます。第2に、もしそのような訴訟が日本で起こされれば、米国の企業だと米国自体の治外管轄(Extraterritorial
Jurisdiction)を理由付けにして(合法であろうが違法であろうが)、米国企業日本子会社は米国企業の延長であり、その子会社は米国法の治外管轄に入り、日本国内の雇用・解雇も米国の法律で審判されると強く主張することでしょう。唯一その例外になるのは、米国企業の日本子会社が既に長い間、日本をベースに操業してきている場合、米国本社が日本子会社を実質上、米国の本社の運営管轄下に直接入らない独立採算の、所謂「円ベース」の子会社としている場合は、米子会社が日本の雇用慣習(の一部)を雇用誓約書に明記していることが多い。例えば、CITI
Bank(設立1902年), IBM Japan(設立1937年)、日本コカ・コーラ(設立1957年)等がそれです。