こんにちは。佐々木さんの発信されているポスト、Voicy、noteを毎日かかさず愛読させて頂いております。特にnoteの記事は時にわくわくし、時に佐々木さんの鋭い観察眼や倫理的な思考に感服しながら楽しみに拝見しております。著作もいくつか拝読させて頂きましたが、こちらも大変勉強になりました。特に“この国を蝕む「神話」解体”では、思い込みや固定観念による反権力や実利を無視した無責任なマスコミの浅はかさが、合理的な選択を阻害していること、根拠の無い陰謀論の背景…等々といった、日本経済や、先進国としての成熟に悪影響を及ぼしている原因のひとつひとつがつぶさに分かり、自分自身の狭隘な視野や理解を広げられたと様に思います。また“新・家めしスタイル”のお陰ではじめて、理想通りの天ぷらを揚げることができました。天ぷらは妻に好評で非常に嬉しかったです。ありがとうございました。

 さて前置きが長くなり、申し訳ありません。ご多忙の事とは存じ上げ、誠に恐縮なのですが、今日は佐々木さんにどうしてもお伺いさせて頂きたい事があり、ご迷惑と思いながらも、このメッセージをしたためております。

それは“何らかの物事や事象について理解し本質を追求する上で、思考の土台や枠組みとなる知識、考え方を養うことができるような書籍はないでしょうか。もしあるとすれば、ぜひ教えて頂けないでしょうか”ということです。

 この様にお願いを申し上げますのは、家計の経済状況を向上させたり、将来子供が出来た時は未来を見据えた自分らしい生き方をさせたい、といった小規模で私的な理由のほか、もし我々、特に愛すべき家族や身近な人々が、武力による侵略や大災害などの脅威にさらされたとき、適切な判断を下すため、またその根本の原因となっている貧困や戦争、格差、考え方の違いなどから生じる様々な不幸を世界中から少しでも取り除くために、より良い知識や考え方を身につけたいからです。

 そのためには様々な情報に目を通し、本質を見抜く力が必要かとは思いますが、私にはその思考の枠組みや知識を戴くために肝心な基礎、知の台座のような物が備わっていないことを日々痛感しております。つまり何らかの記述を目にした時に咀嚼する事はできても、十分に消化吸収することができていないように思われるのです。家族や自分を取り巻く社会の大切さがわかる様になってから、学ぶことの重要性に気が付くとは、我ながら全く愚かだと思いますが今から大学を受講するのは厳しいため、自主的な研鑽を重ねていきたいと思います。

 どうか一言でもアドバイスを頂けないでしょうか。誠に図々しいのですが、佐々木さんの過去の著作からも是非おすすめの作品を教えて頂ければ大変にありがたく存じます。長文、誠に失礼いたしました。佐々木さんのさらなる躍進と健康、ご多幸を心よりお祈りしております。どうぞこれからも頑張って下さい。

書籍のオススメというのは、実はとても難しい問いなのですよ。相手が過去にどのような本を読んできたのか、どのような専門分野を持っているのか、書籍を読むという行為に慣れているのかなど、さまざまな要件があります。加えて、一冊だけを選ぶということもたいへん難しい。さまざまな読書を重ね、あらゆる世界観をひとつひとつ学び、その蓄積によってだんだんと自分独自の哲学のようなものが育っていく。読書とはそのようなものだと思います。

2000年代、まだインターネットがそんなに普及しておらずSNSも広まっていない時代に、古巣の新聞社で上司だった人(団塊の世代です)から「佐々木君、これを読めばインターネットのことはだいたい全部わかるっていうホームページはないのか」と真顔で質問されたことがあります。「いやそんなものはないです、ただひたすらいろんなウェブサイトを渉猟していくことでしか全体像を知る方法はないのですよ」と答えたのですが、あまり納得されていないご様子でした。これは書籍も同じです。

加えて、「思考の土台や基礎」であっても、それが世界認識のためのものなのか、それとも個人の生き方のためのものなのかによって、読むべき書籍は変わってくるということもあります。世界認識のための本であれば、わたしがフリーになってからのこの20年余で読んだ本としてはネグリ=ハートの「<帝国>」とかウォーラーステインや見田宗介氏の著作群とか、最近だとデイヴィッド・グレーバーの「負債論」「万物の黎明」とかさまざまにありますが、ご質問ではこのような本を期待されているのではないようにも感じます。そもそもこれらの本はけっこう読み通すのがたいへんですし、一冊を読んだからといってすべてがわかるわけでもありません。

そこで今回のご質問は、個人の生き方をどう考えればいいか、その土台はどうすべきかという内容であると仮定してお答えしたいと思います。この方向にもたくさんの良書がありますが、わたしがこれまでの10年でいちばん支えとしてきたのは古代ギリシャ・ローマで生まれたストア哲学です。そしてストア哲学を学ぶために最も最適な本が一冊あります。ニューヨーク市立大学の哲学の先生が書いたこの本。

「迷いを断つためのストア哲学」(マッシモ・ピリウーチ、早川書房)

これをぜひ読んでみてください。社会との関係、他者との関係のとりかたが一新される感動がありますよ。

10mo

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Past comments by 佐々木俊尚
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