勝見祐太 (Yuta Katsumi, PhD):目の網膜を介して得た視覚情報は視神経を通って、その大部分が視床という脳の真ん中あたりに位置する脳領域に一旦送られます。視床にて整理された視覚情報は、その後で脳の一番後ろに位置する一次視覚野という領域に送られます。一次視覚野で大まかに分析された視覚情報は、その色・形・大きさ・動き・位置・カテゴリなどを細かく処理するためにそれぞれに特化した視覚連合野に送られます。私たちが目で見た情報は、この視覚連合野で処理・統合された上で初めて認識し解釈されます。したがって、視覚情報の処理には脳内における大規模なネットワークが関わっているということがわかります。このように視覚情報の認識には多くの脳領域が関与するため、もし外傷性脳損傷・脳血管障害・神経変性疾患などによりこれらいずれかの領域が破壊されると、損傷箇所により特徴的な視覚障害が発生します。例えば、頭頂連合野という脳領域は空間認識に重要な役割を担うため、ここを損傷した患者は目の前にある物の色や形を正確に答えることができても、手を伸ばしてそれを掴むことができないことがあります。他に、紡錘状回という脳領域はヒトの顔を認識するのに重要な役割を担うため、ここを損傷した患者は自分や有名人の顔を目の前にすると、目や鼻といった個々のパーツを見分けることができても、顔全体を見てそれが誰なのか認識できないことがあります。この障害は一般的に相貌失認といわれます。