
堀田隆一:質問者が指摘された通り,異なる2つの言語のあいだで形式・意味ともに似ている単語がある,というケースはままあります.このような場合に,歴史言語学的な観点から,似ている「理由」は多々あると考えています.偶然か必然かという2分法で考えてしまうと2種類の「理由」しかなくなってしまうのですが,異なる視点からもう少し精密に分類してみると,5つほどのパターンがあるのではないかというのが私の考えです.
具体的に考えるほうが分かりやすいと思いますし,私自身が英語史を専門としていますので,英語からの例を示したいと思います.もっと限定しますと,英語とフランス語の間で似ている単語があるケースに注目します.ただし,この考え方は,どの2言語の関係についても当てはまります.
(1)
英仏同根:英語とフランス語は,究極的にはともに印欧祖語に遡ります.もともと同一の語根をもつので,それを受け継いだ両言語であれば,類似項があるのは当然のことです
(ex. one/un(e), two/deux, three/trois) .
(2) 仏語から英語への借用:please, curious, scandal, approach, etc.
(3) 英語から仏語への借用:baby-sitter, baseball, camping, happy end, weekend
(4) 偶然の一致:have/avoir
(5) 言語普遍性:papa, mama, cuckoo/coucou
ちなみに,質問者による3つの例についていえば,私見ではありますが,「名前」と「ネーム」と「道路」と「ロード」の2例については「(4)
偶然の一致」ゆえ,「母」と「ママ」については「(5) 言語普遍性」ゆえ,と考えるのが妥当なのではないかと判断しています.
関連して,「hellog~英語史ブログ」よりこちらの記事群をご覧ください.また,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも「#368.
英語とフランス語で似ている単語がある場合の5つのパターン」としてこの問題について詳しく音声解説していますので,ぜひそちらをお聴きください.