橋本 省二:が〜ん。驚きました。いまどきの高校ではこんな難しいことまでやるんですか?
分子間力は距離の7乗に反比例なんですか。知りませんでした。素朴に考えると4乗に反比例だと思うけどおかしいなあ。くやしいので調べてみました。ちょっと聞いてください。
分子にはたらく力は電磁気力。要はクーロン力です。クーロン力は(重力の)万有引力と同じで距離の2乗に反比例します。重力との大きな違いは、電荷にはプラスとマイナスがあって、同符号だと反発、逆符号だと引力になっていることですね。原子のなかはプラス電荷の原子核とマイナス電荷の電子がいて全体としては中性になっているので、遠くから見るとクーロン力ははたらかなくなりますね。
さて、分子間力を考えるにはもう少し詳細を見る必要があります。分子は複数の原子がくっついてできていて、その形によっては電荷に偏りができる場合があります(分極といいます)。片方の原子がより電子を引き付けるせいで、全体としてマイナス電荷がそっちの原子に寄っちゃうということですね。そうなると、全体としては電荷ゼロの分子でも近くではやはりプラスかマイナスの電荷の影響が見えてきます。
そうそう、これは棒磁石と同じですね。N極とS極をもつ棒磁石は全体としての磁気は中性のはずですが、2つの棒磁石を近づけると一方のN極と他方のS極がパチンとくっつきます。近距離では磁力がちゃんとはたらく。
分極した分子の電気力も同じです。普通のクーロン力は距離の2乗に反比例しますが、プラスとマイナスを近くに置いたとき(分極)に遠くにはたらく力は、距離の2乗に反比例する部分はプラスとマイナスで消えて、距離の3乗に反比例するものが残るはずです。プラス電荷とマイナス電荷への距離が微妙にずれているからです。さて、力を受けているほうの分子もやはり全体として中性だと力ははたらきませんが、こちらも分極していれば、その分が残ります。これで距離の4乗に反比例です。ほら、私が言った通り4乗でしょ?
しかし、自然はいつも私の想像を超えています。ここでもどんでん返しがあるようです。そのままでは分極がおきないような分子でも、外から電場をかけると電子が引っぱられて分極することがあります。分極の大きさは電場の強さに比例します。この電場はもう一方の分極分子によるクーロン力でできているとしましょう。そいつは距離の3乗に反比例なので、分極自体が距離の3乗に反比例なんですね。さっきの4乗と合わせると、距離の7乗に反比例です。
ご質問いただいた通りでしたね。こういうのをファン・デル・ワールス力というそうです。参りました。降参です。