橋本 省二:希ガス(ヘリウムやアルゴン)は電子軌道がうまっているせいで安定で不活性。アルカリ金属(ナトリウムやカリウム)は電子が一個余っているせいで反応しやすい。高校の化学で覚えさせられましたよね。原子の形というか構造が性質を決める。ひょっとして原子核にも同じようなことがあるのだろうか。もしかしてそういうご質問ですかね。でしたら私も知りたいです。ちょっと考えてみましょう。
電磁気力で原子核と電子が結びつくのが原子。一方の原子核は核力で陽子と中性子が結びついたものです。いずれもフェルミオンでできているという点は重要です。同じ軌道に入れる電子は2個(スピン↑と↓が一つずつ)だけでしたね。陽子と中性子も同様で、もし軌道というものがあるなら、そこに入れるのは陽子2個、中性子2個までです。一方で原子と原子核の大きな違いは、電子同士にはたらく電磁気力が斥力(反発し合う)なのに対して陽子・中性子間にはたらく核力は総じて引力だというところです。ほかにもいくつか大きな違いはありますが、原子核の特徴は、おかげで皆が皆を引きつけて「ぐちゃ」っとくっつくところですかね。
それでも軌道というものを考えることができます。球対称な波動関数からはじまり、角運動量をもった状態など、s波,
p波などと呼ばれるところも同じです。s波の基底状態に陽子が2個、中性子が2個入ったものをヘリウム4といいますね。とても安定で、ときには大きな原子核からこの塊で飛び出してくることもあり、アルファ線と呼ばれています。次はp波ですか。角運動量1には3つ状態があるので、陽子をつめていくと6個。s波の2個と合わせて8個。これは酸素です。8個の中性子と合わせた酸素16は安定になります。2の次は8。こういうのを原子核の「魔法数」と呼びます。こうして魔法数まできっちり詰まった原子核は基本的に球形になります。偏りがないんですね。一方で、途中まで詰まった原子核だと回転やら振動が残って、ゆがんだ形になりやすいと思われます。だから原子核の形は単純じゃないんですね。大きな原子核になるともっと話は複雑になるはずです。
そういうわけで、原子と原子核には似たところがあります。だから励起状態というのも存在します。私が聞いたおもしろい話を一つ。炭素のホイル状態です。ヘリウム4を3つくっつけると炭素12ができるはずですが、核融合がつづく星のなかでこれが起こる可能性が小さすぎるという話です。ヘリウム2個でできるはずのベリリウムが大変不安定なおかげで、4→8→12と順番に作るのが難しい。このままでは宇宙になぜ炭素が存在し、ひいてはそれより重い元素がどうやってできるのかわからない。これは困った、となっていたときに、ホイルさんという変わった人がいて、炭素12の励起状態がちょうどこのエネルギーのところにあったら、共鳴を起こしてうまく炭素ができるというのを言い出したんだそうです。そればかりか、忙しい実験家のところに行って、すぐにこいつを探してみてくれと。絶対あるから。「面倒くせえなぁ」と言いながら探したファウラーさんは、ほんとに見つかって驚いた。何でお前知ってたんだ?
だって炭素があるからだよ、ホイルさんが言ったかどうか。後年、ファウラーさんはこの業績でノーベル賞をもらいました。なぜかホイルさんにはなし。相当嫌われものだったのかもしれません。(興味があったらサイモン・シン「ビッグバン宇宙論」を読んでみてください。)
最近になってシミュレーションで炭素のホイル状態の構造がわかってきたと聞きました。やはり球形ではなく、いびつな形だったみたいです。なるほど、おもしろいですね。