積惟美:一般的な金融所得課税の税率を上げることの政策的なメリットは、富裕層からより多くの人々に富を再分配することで、日本における所得格差の問題を是正できることです。金融所得課税の税率を上げるという政策が上がったのは、おそらくこの所得格差を是正することが目的であると考えられます。岸田総理が就任当初掲げていた「新しい資本主義」では、経済活動の果実を株主だけでなく、広くステークホルダーに分配することがその要点の一つだったと思います。その一環として、株主に分配されたお金を税金として徴収し、それを他の国民に分配することが目的だったのではないでしょうか。
一方で、デメリットとしては、国民の金融投資意欲をそぐ結果につながる可能性があり、おっしゃる通り、せっかく出来ていた「貯蓄から投資へ」の流れに逆行するものです。そもそも、日本は(経済成長できている)他国と比べて貧困問題はそれほど深刻ではありません。たとえば、下図にあるように、(経済成長できている)米国の所得上位20%と下位20%の平均所得差は約20倍であるのに対して、(経済成長できていない)日本は10倍程度です。
(出典:日本証券業協会「格差の国際比較と資産形成の課題について」)
そのため、日本においては、所得格差の問題はそれほど大きくなく、それよりも国民が総貧困化していることの方が問題だと個人的には思います。
政策として、所得格差の是正を取るか、経済成長を取るかというのは非常に難しい問題ではありますが、所得格差というより貧困問題の方が重要な現状においては、メリットがデメリットを上回らないのではないかと思います。真の理由は分かりませんが、結局この政策は実施されなかったのもこうした背景があるのではないでしょうか。