十文字青:灰と幻想のグリムガルの主人公ハルヒロは、他に適任者がいない、流れでなんとなく、といったふうに、自ら望んだわけではないのに集団のリーダーになってしまった、若い男性です。僕にもリーダーの経験が少しだけあるのですが、なかなか大変なもので、結局、放り投げてしまいました。しかし、ハルヒロの場合、状況が状況だけにそういうわけにもいきません。 そのようなリーダーに率いられるグループに、どういった個性の持ち主がいたら面白いだろう(ハルヒロにとっては面白いどころではないかもしれませんが)と考えて、シホルのように引っ込み思案でうちに籠もりがちな女性や、マイペースなユメ、おっとりしているけれど芯が強いモグゾー、といったキャラクターを配置してゆきました。皆それぞれ、強みはあるものの、どこか危うい、一歩間違えるとグループのバランスを崩しかねない要素を持っている人たちです。 その中でランタは、明確にグループの和を乱す人物として登場させました。誰にでも、あまり好きになれないタイプの人と、どうしても付き合わなければならないことがあると思います。僕のように、家からほとんど出ずに書き物ばかりしている人間でさえ、なくはないのです。ようするにランタは、ハルヒロが苦手な、そりが合わず、耐え難い人物でなければなりませんでした。そういう相手とも、なんとかかんとかやってゆく、というのが、グリムガルでハルヒロに課せられたミッションの一つだったのです。 僕は好かれるより嫌われることのほうが多い人生を歩んできました。おかげで、どういう人が嫌われがちなのか、けっこう知っているほうです。ランタの他人からよく思われない部分は、実は僕の悪いところに似ています。彼は口が悪く、露悪的で、他人に好かれたくないわけではないけれど、好かれるために自分を曲げるくらいなら、好き勝手なことをして嫌われるほうを選びますね。僕にもそういうところがあります。というか、もっと若い頃の僕は、まさしくそういう人間でした。 最初の頃のランタは、僕にはなんだか若い頃のひどい自分自身を見ているようで、書いていても不愉快でした。ランタにはそうあってもらわないと困るので、我慢しながら書いていたものです。物語を通してランタがどう変わってゆくか、という点は、僕にとって楽しみの一つです。 これまで大勢の人間やそれ以外を書いてきましたが、そのキャラクターにどれだけ興味を持てるか、ということが重要かもしれません。そのキャラクターが生まれて死ぬまでの道筋を是非とも知りたい、と思えるかどうか。突き詰めると、僕が小説という形で書きたいのは、自分にとって興味深いものたちの生き死にだけなのかもしれません。(Read more)