橋本 省二:ダークエネルギーが宇宙の何%をしめていて...
という円グラフ。あれをもう何回見せられたことか。何百回か、もしかするとそれ以上かも。みんな同じことを言うので何となくもう常識のような気がしているけど、冷静になって疑う姿勢は大事ですね。ご質問ありがとうございます。
とはいえ、私もすっきり説明できるわけではありません。これは相当ややこしい話なんです。ちょっと試してみましょうか。
宇宙背景放射というのをご存知ですよね。ビッグバンのころの光が残り、宇宙の膨張にともなって波長が伸びてマイクロ波として観測されているというあれです。宇宙のどちらを向いてもほぼ同じ光が届いているのですが、よく調べてみるとその波長が向きによってわずかに揺らいでいることがわかる。これが実は宇宙のごく初期にできた量子ゆらぎだと解釈されています。宇宙がまだ小さくて量子論の対象だったころのゆらぎです。ある瞬間のゆらぎがインフレーションというとんでもない速さの膨張のおかげで冷凍保存されて、あの光の濃淡となって残ったというわけです。
さあ問題はここからです。たとえゆらぎがあったとしても背景放射となる光が出る前にふたたびかき回されてしまったら何にもなくなってしまうでしょう。当時宇宙にはプラズマとなった電子が満ちていたはずです。そいつらがごちゃごちゃと飛び回る時間があったら消えてしまう。つまり、あまり距離の近い範囲のゆらぎは消え、かきまぜる時間が足りなかった長距離にわたるゆらぎは残ることになるでしょう。それにかかる時間は何で決まるかというと、プラズマ中を振動が伝わる速さ、つまり音速です。音速は電子の密度によりますから、観測されたゆらぎの及ぶ範囲を見れば、当時の電子の密度、それは同時に陽子と中性子の密度がわかるということになります。さらには、「当時」がいつだったかという情報も重要です。その時点での(ダークマターを含む)物質量と光子の量を決めることになるからです。これは背景放射の温度(波長と言ってもいいでしょう)を見ればわかります。何しろ宇宙背景放射の観測は精密ですから、他にもいろんな情報を引き出すことができます。データを理論と比較することで決まったパラメータが、質問に出てきた通常の物質やダークマターの割合ということになります。
いかがでしょうか。ややこしい話ですね。ついでにもう一言加えておきましょう。実はいま、宇宙背景放射で精密に決まったとされるハッブル定数(宇宙の膨張率)の値が、遠ざかる個々の星を使った測定と合わないという大問題が持ち上がっています。宇宙論の根幹に関わる問題です。どう解決されるんでしょうね。そのときには現在の常識も変わっているかもしれませんよ。