小田部正明 (Masaaki Kotabe):この質問はコインの裏と表のようなもので、同じ事象をどのように理解するかの違いだと思います。簡単に言えばPMFとは商品が消費者のニーズに十分合っているかどうかを意味します。2つの課題が出てきます。第1に、貴社が(既存の商品で十分に満たされていない)消費者のニーズを把握しているかどうか。第2に、貴社の既存の商品、ないしは新たに開発した商品がその消費者のニーズを満足させる機能と属性を持っているかどうか。教科書の上では、この2つがうまくかみ合えばPMFが見つかったことになります。現実には、商品のポジショニングに試行錯誤が必要なことがかなりあります。例えば、P&Gの消臭剤のファブリーズは最初、靴やトイレの臭いのもとの「細菌を殺す殺菌性のある」消臭剤であることを強調して開発・販売されました。勿論、そのような消費者ニーズがありました。ところが、一般消費者は殺菌性のあるもの(つまり薬品)を締め切った部屋の中で撒くには健康に良くないと思い、ファブリーズの売り上げが全く伸びませんでした。PMFがあったようで、実際にはなかった訳です。つまりポジショニングの失敗です。そこでP&Gはファブリーズの化学組成を全く変えることなく、殺菌性のあることを全く言わず、「気になる部屋の臭い、タバコやペットの臭いなどを解消する消臭・芳香剤」と新しいポジショニングのマーケティング戦略をとることによって大成功しました。つまり商品の中身を変えることなく、同じ商品のポジショニング(メッセージ)を変えることによってPMFを引き出した事例です。試行錯誤が大切です。