自分が行ったアウトプットに対して、自分による評価と、他者による評価とにズレがあるというのは珍しいことではないと思います。自分の評価が高くて、他者の評価が低い場合もありますし、ご質問にあるように、自分の評価は低いのに、他者の評価が高い場合もあるでしょう。

短く答えるならば「評価の観点を明確にする」ことが肝心でしょう。アウトプットの評価をきちんと行うことを考えるなら、決して一次元ではないし、そもそも数値だけで評価できるものでもありません。つまり「高い/低い」だけで評価できるものではないという意味です。

「評価の観点を明確にする」ことをもう少し説明します。

自分で自分のアウトプットを評価する場合、つい「これは良い(高い評価)」や「これは悪い(低い評価)」と短絡的に考えてしまいがちです。それを避けて「これは、これこれこういう点において良い」や「これは、これこれこういう点において悪い」のように考えます。「どういう点において評価を下したのか」を明確にするのが「評価の観点を明確にする」という意味です。

たとえば、私は本を書くのが仕事ですので、自分のアウトプットを評価するというのは書いた本を評価することになります。「この本は良い」と単純に評価するのではなく「これまで自分が描けなかった世界を描くことができたという点で良い」と評価したり、「難解な問題を表現することができたという点で良い」と評価したり、「新たな読者さんにアピールできる本になったという点で良い」と評価するのです。

もちろん、評価の観点は無数に考えることができるでしょう。そもそもアウトプットを行う前には自分の見込み・見積もり・ねらいがあるはずです。今回の作品はこういうものにしたいという期待や目標です。本来の「品質管理」を考えるならば、その期待や目標と照らし合わせて自分のアウトプットの評価を行うべきでしょう。品質というのは基準がなければ良いとも悪いともいえませんから(まあ、そんなふうに杓子定規に考えることができるとは限りませんけれど)。

ここまでは自分による評価として書いてきましたが、他者による評価を見聞きする際にもまったく同じように考えます。つまり、他者からの評価を一次元の量としてとらえるのではなく(あるいは「良い」「悪い」でとらえるのではなく)、「この人はどういう観点で私のアウトプットを評価しているだろうか」という意識を持つのです。

たとえば、私は自分の本の感想を読者さんから受け取ることがありますし、ネットで感想を読むこともよくあります。その際には「どのような読者さんが、どのように私の本を受け止めたのか」と考えます。読者さんは必ずしも分析的な表現をしてくれるとは限りませんので、想像で補う場合が多いのですが、とにかく読者さんはどういう点で良い(あるいは悪い)と評価したのかをつかもうと努力します。

読者さんは多様ですから、それぞれに受け止め方が異なりますし、評価も異なります。響くポイントも違います。当然ながら、私が書き手として評価するときの「観点」と、読者さんが読み手として評価するときの「観点」はずいぶん違うでしょう。観点がずれていれば、評価の値がずれるのは不思議ではありません。たとえていえば、温度と長さを比較するようなものですからね。

書き手である私の方としては「これまで自分が描けなかった世界を描けたので良い」と評価しても、読者さんはそんなことは知ったことではないかもしれません。逆に自分としてはふつうに書いたところが、読者さんの琴線に触れて高い評価を受けることだってあります。自分と読者さんは別の人間ですから。

ご質問でピックアップされていた「他者の評価が高いにもかかわらず、自己評価が低い場合」について。ここまで述べてきたように、他者と自分の「評価の観点」を明確にして考えるのが第一歩です。温度と長さを比較するようなことになっていないかを注意するわけです。

もしも、評価の観点が一致した上で、他者の評価と自分の評価にズレがあった場合はどう考えるか。それは簡単です。自分が考えている読者像を微調整するだけです。「自分としては、こういうアウトプットは読者にこう評価されると思っていた。しかし実際には違っていた。ということは自分が考える読者像は、実際の読者とズレていたのかもしれないな」と考えるのです。それと同時に、アウトプットに対する認識も微調整するかもしれませんね。

自分のアウトプットを評価する上で、自分の評価が正しい(正確である)とは限りません。自分はそのアウトプットの作成にどっぷりと浸っているので、視点がゆがんでいる可能性もあります。他者の評価をていねいに検討することでそのゆがみを微調整することは健全なフィードバックであると思います。

以上、私の思うことを書きました。

2021/10/05Posted
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