矢代 航(Wataru Yashiro):例えば可視光よりも波長の短い電磁波が使用されます。光の波長はエネルギーに反比例することが知られています。人間の目でみることができる可視光の波長は、ご存じのとおり、400
nm~800 nm、エネルギーでいうと2 eV~3
eVですが、それよりも1万倍程度エネルギーの高い電磁波(硬X線、あるいは単にX線と呼ばれています)の波長は、0.1
nmよりも短いため、物質中で原子がどのように配列しているか、といったことまで分かります。
ただし、X線は、物質との相互作用が小さいため、原子一つひとつを観察できるということではありません。相互作用が小さいというのは、透過しやすいことの裏返しでして、X線がレントゲン撮影やCTスキャナなどに用いられる理由になっています。原子一つひとつによるX線の散乱は非常に小さいため、結晶中の原子のように、規則正しく並んだたくさんの原子にX線を当てることで、X線の散乱強度が強くなり、はじめて原子がどのように配列しているか、調べることができます。すなわち、X線を用いて「観察」できるのは、原子の平均的な配列です。
一方で、電子も波の性質をもっていることがトムソン(George Paget
Thomson)により1927年に実験的に証明されました。電子はX線と異なり、物質との相互作用が非常に大きく、また、波長はエネルギーの平方根に反比例します。十分に大きいエネルギーの電子を用いれば、原子一つひとつを観察することも現在では可能になっています。ただし、試料の厚さは非常に薄くする必要があります。