田口善弘@中央大学:面白い質問ですね。それは多分足の小指です。 一般に何らかの器官が消失するのは、大きな進化によってその器官が不要になるからですね。人間が尻尾を失ったのも、完全な直立歩行を獲得してバランスをとるための尻尾が要らなくなったからでしょう。 人間の場合、他の生物になくて人間にあるもっとも大きな形態学的な特徴は完全な二足歩行です。人間の体は突然立ち上がったためにいろいろな不具合を起こすといわれています。例えば肩関節は本来体を支える役目だったのに直立したためにぶら下がるだけになりました。それまでは押す力がかかっていたのが引っ張る力になったのでこれがいわゆる五十肩の原因だといわれています。 また気管支炎も、直立したことで気管の分岐である気管支に「ゴミ」がたまりやすく気管支が炎症しやすくなって気管支炎が頻発するようになったといわれています。 さて、立ったことでもっとも大きな影響を受ける器官でしょう?それはいうまでもなく足ですね。上記引用にあるように、足の小指は直立歩行をするようになった結果、ほどんど力が加わらない不要な器官になってしまいました。 生物は進化の過程では不要な器官は失いがちです。要らないものは無い方が発生にも維持にも余分なエネルギーがかからないので有利です。暗闇に閉じ込められた生物が比較的早期に目を失ってしまうのも目が発生と維持に負荷が大きい高等な器官だからでしょう。 その点では歩いている時にあってもなくても同じである小指は、短い人、細い人の方が進化的に生存が有利になり、それはほんのわずかの有利でしょうけど、まさにそのわずかな差が子孫の数のわずかな差につながって形質として固定していくのが進化なので、あってもなくてもどうでもいい足の小指はいつか無くなってしまうのではないでしょうか?事故で足の小指だけ無くなってしまった人というのはあまりいないんじゃないかとは思いますが、確かに無くなってもそんなにこまらなそうですよね。(Read more)
生物発光科学者(近江谷):既に無くなりつつあるということで、親知らずがあります。「親知らず」は,縄文時代に8割の人が生えそろっていましたが、現代人では「親知らず」が生えそろうのは3割も満たないようです。近い将来、全く生えなくなると予想する研究者もいます。硬いものを食べていた時代から柔らかい食べ物が主流となった食生活の変化と共に、「親知らず」は不必要な存在となり生えなくなったと、つまりは人類の「退化という名の進化」として説明されています。よって、近い将来的には全く早くなくなる器官というより、口器官の部品であるかもしれません。しかし、生物を研究する私の感覚では少し早すぎる変化(進化)にも思えます。なぜなら、せいぜい数千年の出来事で世代交代数も多くなく、また、食生活の変化がここまで直接的に歯の数に影響するのが早すぎると感じるからです。でも、「親知らず」の現象は事実なので、進化というものを、どのような時間軸で見るのか、面白い研究対象にも思えます。 そんな観点に立つと、肥満組織も面白いですね。肥満組織は、常に食にありつけない原始のヒトが、少しでも栄養をため込んでおくためにできた組織とも考えられています。飢餓状態になれば、肥満組織を代謝によって、そして最終的には脳のエネルギーであるグルコースに変えます。よって、必要最低限の栄養だけが常時供給されることになれば、肥満組織はなくなるでしょう。ただし、ヒトの欲望は、それを抑え込むことはできないでしょうから、肥満組織はなくならないでしょう。(Read more)