小田部正明 (Masaaki Kotabe):経営者と言っても意味が広い概念なので、企業を立ち上げた「創始者」しての経営者と立ち上げられた企業が安定成長にある時期の「管理者」としての経営者を区別して考得なければなりません。最初の創始者は企業を立ち上げていくことのできる人物ですから、将来の方向性を良きできる、ないしは創造していけるような先見の明のある人(ビジョナリー)でなければなりません。ここで先見のある人とは一般に技術的な知識を持っている場合が多いですが、必ずしもそうとは限りません。例えば、Microsoftを立ち上げたBill
Gatesはコンピュータのソフトウエアのプログラムを書く技術的な知識がありましたが、AppleのSteve
Jobsは技術的な所はむしろ彼のパートナーのSteve
Wozniakに頼り、Jobs自身は製品の美的な観点や使いやすさに関心をもってそのビジョンでパソコンの産業を立ち上げていきました。良く創業者は起業家とも言われ、特徴として製品を開発し売り上げを上げていくことは考えますが、それを成し遂げるに必要なコスト(例えば無駄をなくそうとかする努力)面にはあまり関心を持たないことが多いようです。その為、その人のビジョンで投資家を募るような能力を持っています。
ところが軌道に乗って安定成長期に入った企業を運営していくには、管理能力のある人物が経営者として必要です。勿論、創始者(起業家)自身が管理能力もあればそれに越したことはないのですが、前述したように、このような人たちはコスト側のビジネス勘にかけていることが多いのが現実です。ここで管理能力と言うのは、多くの従業員が働く組織が効率的に稼働することに能力を発揮できることを意味します。その為には、組織の運営に必要な人を動かす力、つまりモチベーションを高め、効率的な意思決定のための組織づくりのうまい人でなければなりません。ここで効率的と言うのは、無駄なコストのかからないようにして運営することに力を注ぐことのできる人物を意味しています。
多分、MirosoftのBill Gatesはこの2つの能力があったのでしょう。AppleのBill
Gatesの場合は、Appleと言う企業を立ち上げには成功したもののコスト管理を無視していたため、企業としての業績(利益率)は悪く、一時、首になりAppleから追い出され、Pepsi
Colaから抜擢されたJohn Scullyが新社長(最高管理者)として雇われた時代があります。生憎、John
Scullyは管理者としては良かったのですが、Steve
Jobsのビジョンがありませんでした。コスト面ではビジネスでうまくいっても、新製品開発の方向付けするビジョンがなく、結局、AppleはJohn
Scullyを解雇し、Steve Jobsを再採用しました。その後のAppleの成長は皆さんもご存じのように、iPod, iPhone,
iPad等のビジョナリーな製品を次々と開発していきました。この先見の明のあるビジョナリーな起業家の能力とコスト面での管理力のうまい2つの能力が大切ですが、このバランスが企業の長期的な成長に必要なのでしょう。