橋本 省二:空虚な宣伝文句や責任逃れの建前ばかりがまかり通る日本に将来はあるのか。そういう質問ではないですよね。本当に心配ですが、そんな小さな話はやめましょう。宇宙に流れる時間の、過去と未来はどちらが長いか。そういう質問だとしてお答えしてみます。結論は「わかりません」ということなんですが、ちょっとおつきあいください。
宇宙が始まってから今にいたる時間はだいたいわかっています。138億年。よく聞きますよね。膨張する宇宙を逆にさかのぼっていくと、どうやら138億年前に宇宙が小さな点から始まったと考えるしかない。その前の時間はどうなっていたかわからないので、時間もそこから始まったと考えよう。だから過去の長さは138億年。これは認めることにしましょう。問題は未来です。
現在も宇宙は膨張しつづけています。今この瞬間はわからないわけですけど、これまでずっと膨張し続けていることはわかっている。それどころか、膨張が加速しているという証拠すらあります。だから、きっとこれからもしばらくは膨張が続くと考えるのが自然です。この先、この調子で膨張が続くとどうなるんでしょうね。遠くの銀河はどんどん遠くへ離れ、私たちの銀河は孤立したさみしい場所になりそうです。そのなかで星々は燃え尽きて、やがて宇宙は真っ暗になる。それでも時間だけは続く。これがもっとも普通の想像だと思います。ちょっと切なくなりますけど。
でも、宇宙全体を支配する法則が完全に理解されているわけではありません。アインシュタインの一般相対性理論はありますが、そこに出てくる宇宙項(あるいはダークエネルギー)の起源はわからないので、それが将来大きくなったり小さくなったりする可能性も否定できません。ですから、可能性としては、膨張する宇宙がいつか収縮に転じ、最後は一点につぶれてしまうということも考えられます。ビッグクランチと言ったりしますね。そのときの未来は...、きっと過去よりも長いでしょうが有限です。
逆の可能性としては、膨張がどんどん加速し続けるということも考えられます。隣の銀河が遠くなるどころではなく、隣の星も遠くなり、隣の惑星、それどころか隣の国、隣の家、いやいや原子同士が遠く離れてしまって、孤独な素粒子だけが残る可能性です。バカなことを言うなですって?
いやいや、そういうバカな可能性をまじめに考えている研究者はいて、これにもビッグリップという名前がついているそうですよ。この場合も無為な時間だけが流れていきそうです。
やばい可能性もあります。宇宙が突然相転移を起こして別の宇宙に変わってしまう可能性です。真空の不安定性というのに関係しているのですが、このときに宇宙がどうなってしまうのかはよくわからないんだと思います。現在の素粒子標準模型によれば、こういうことが起こる可能性は非常に小さくて宇宙年齢より何桁も長い時間待たないといけないようですが、それでも明日それが起こる可能性もゼロではありません。残された時間は明日まで?
それで結論は?と言いたくなるでしょうね。よくわからないんです。だから想像して楽しむのはいいですが、今日の仕事を放り出したりすることがないようにしましょう。明日はちゃんとやってくる可能性が極めて高いのです。