堀田隆一:間違いなく今後も新しいことわざや故事成語が生まれ続けるだろうと考えます.
日本語の歴史や(私の専門である)英語の歴史を振り返ると,ことわざ,故事成語,警句の類いは古代から現代まで絶えることなく作り出されてきたことがわかります.なかには定着せずに消えていったものもありますし,(言い回しは多少変わりつつも)現在まで受け継がれてきたものもあります.ただ,現代まで生き残っているかどうかは別として,ことわざ等が「生み出された」タイミングを考慮するのであれば,各時代から例が挙がってきます.
以下,回答者の専門が英語史なので英語からの例となりますが,ほぼ同じパターンが日本語にも当てはまると思います.
ことわざといえば古代からの年季の入ったものが多いだろうと想像されるかもしれません.しかし,意外と歴史のなかで新陳代謝が繰り返されてきた表現なのです.英語では古代,中世,近代,現代のいずれの時代にも,新たなことわざが生み出されてきました.自言語のなかで生み出されたものもあれば,他言語のことわざが翻訳されて入ってきたものもあります.
英語学習者は暗記していることも多いのではないかと思われますが,It never rains but it
pours. 「降れば必ずどしゃ降り」ということわざがあります.これなどは,古そうに見せかけておきながら,意外と遅く18世紀前半に It cannot rain
but it pours. という形で初めて現われます.日本語の「井の中の蛙大海を知らず」は,1918年に The frog in the well knows
nothing of the sea. と翻訳され,英語に入っています.英語のことわざとしては,比較的最近のものといえます.
ほかに20世紀に成立した新しい英語のことわざをいくつか挙げれば:
・ 1948年,The family that prays together stays together. 「ともに祈りをする家族の結束は固い」
・ 1957年,Garbage in, garbage out 「不良情報を入力すれば,不良情報が出力される」
・ 1967年,There's no such thing as a free lunch.「無料の昼飯などない」
・ 1978年,The opera isn't over till the fat lady sings.
「太った女性が歌うまでオペラは終らない;事は最後の最後までわからない」
歴史が浅いにもかかわらず,いずれも今ではよく使われています.2つめの Garbage in, garbage out
などは,コンピュータの入出力を念頭に置いたことわざで,いかにも現代文化の産物という風です.
日本語でも英語でも,時代とともに社会や文化が変化し,それに応じて言葉もことわざも新陳代謝してきました.歴史的に繰り返されてきたこのパターンが,今後停止するだろうと考え得る根拠はありません.
回答者によるこちらの記事「#3321. 英語の諺の起源,生成,新陳代謝」もご覧ください.