鈴木 一生:経済は専門ではありませんが、専門知識がなくても答えられる部分があるので回答しておきます。 > 「人間は行動の結果として得られる利益の期待値が最大になるように行動する」ということを理論の根本的原理とする経済学やゲームの理論 * 経済学・ゲーム理論すべてが、「人は利益の期待値が最大になるように行動する」ことを前提とはしていません。（例：行動経済学） * 経済学の一分野である期待効用理論では「人は利益の期待値が最大になるように行動する」を前提としますが、この前提が成り立たない場合には、そもそも理論が適用できないという結論になります。すべての理論には前提や適用範囲があります。 * また「人は利益の期待値が最大になるように行動する」という前提のもとでも、質問で暗に仮定している「配当金額＝利益」という関係は吟味する必要があります。 人が宝くじを買う動機は銀行預金残高を増やすことではなく、それによって得られるお金で幸せになることだと考えられますが、この効用は必ずしも当選金額に比例しません。たとえば「生涯年収を超える当選金が得られて、今後一切収入のための仕事をする必要がなくなった場合の利益」を極めて大きいと判断する人にとっては、当選確率は低くても宝くじ購入の利益の期待値はプラスになり得ます（逆に当選金額が一定金額を超えると、それ以上増えても効用は増えません）。 また期待効用理論とは別方面からのアプローチとして、心理学的な解釈も可能です。 人間は「自分は他の人と比べて平均以上である」と過大な自己評価を行うことが知られています。たとえば自分は平均的な運転手よりも注意深いか、並列駐車が上手いと思うかと聞くたところ、過半数のドライバーが Yes と答えたという実験結果があります [1]（自己評価が正しければ、ちょうど半数になるはずです）。宝くじ購入に際して自己の当選確率を過大に見積もっていれば、その人にとっての主観的な配当金額の期待値は大きくなります。 宝くじでは損失は先に確定するのに対し、利益は後から生じます。人間は、このようなタイプの支払いのほうが期待する喜びと消費する楽しみが増すという指摘もあります [2]。（逆に目の前でじわじわ支出が増えていくのは不愉快です。たとえばタクシーのメーターが上がっていくのを見ているときとか） [1] Are ALL Minnesotans Above Average? [2] 「幸せをお金で買う」5つの授業, エリザベス・ダン (著), マイケル・ノートン (著), Lecture 4. 先に支払って、後で消費する