橋本 省二:サウナに入って、ふと温度計を見ると80度!
目を疑いました。賢明な私はすぐに撤退。あんな暑いところで何分も汗を流して我慢している人の気がしれません。血が沸騰して死んじゃいますよ(ウソです)。考えてみてください。80度のお湯に入ったらほんとに死んじゃいますよね。何が違うんでしょう?
そう、そこにある高温の物質の密度です。空気は熱いかもしれないけど、そこにある分子の密度はすかすか。勢いよく肌に当たっても、そこに届ける熱量は少ない。一方でお湯には水分子がぎっしり。そのすべてが熱によって高速運動しているので、肌に届ける熱量は大きくなります。だから、暑いお湯に入ったらすぐに茹だっちゃうけど、サウナに入っても急には死なないんですね。
核融合炉のなかは1億度以上。電子と陽子はバラバラになって飛び交うプラズマ状態です。こんなものを容器に入れたら、あっという間に溶けちゃう...
、という話にならないのはなぜかというご質問ですよね。まずは、このプラズマ。(中心以外は)密度がごく薄いんですね。だから温度は高くても熱量としては炉壁をすべて溶かしてしまうほどではない。また、プラズマをとじこめるために強力な磁場でバリアをつくります。おかげでプラズマが直接壁に当たることはない。ただし、プラズマから放射する光(ガンマ線)は壁に当たるでしょう。表面の電子に当たって弾き飛ばし、それがシャワー状にX線を出すことは起こるでしょうね。でもそれだけ。電子はやがて元の位置に戻ってくることになるでしょう。分厚い鉄でできた壁には何事も起こりません。
むしろ危ないのは、核融合が始まって中性子がじゃんじゃん放出されたときです。中性子は磁場では閉じ込められませんので、やはり壁に当たります。こいつはガンマ線より危険で、原子核にぶつかって原子核を別のものに変えてしまう(放射化する)ことがあります。それがまた放射性崩壊を起こすと、鉄の壁といえども表面から少しずつ壊れていくことになるでしょう。あるいは、壁の内部に水素やヘリウムができちゃってひび割れが起こるかもしれません。これはまずいですね。だから、中性子が当っても影響が少ない壁材の研究が必要なのです。
核融合はいつ実現できるんでしょうね。壊れない壁を作るのも難しいし、そもそも高温のプラズマを維持するのが難しい。あそこから熱を取り出すのはどうやるんだろう。なかなか実用化の話を聞かないのももっともなことです。